しかし同時に、小型スピーカーならではの限界も痛感したという。
素性はよいのですが、低音の再生能力だけはどうしようもないんです。サイズが小さいため、どうしても低音の絶対的なボリュームが足りない。これを解決できない限り、私の思い描く理想の製品は生み出せそうにもないと思い、まずはこの低音を増強する方法から考え始めました。
そこである日、SRS-AX10のバスレフポートにストローをつけて延長してみました。すると、パスレフポートが耳に近くなったことで低音が増強され、良好な結果が出たのです。一般的には、耳からの距離を半分にすると音圧は倍になると言われていますが、その理論をうまく活用することで、小型スピーカーの低音ボリュームをコントロールすることを思いつきました(山岸氏)。
PFR-V1の小型スピーカー+飛び出したバスレフポートという基本的なスタイルが、小型スピーカーのデメリットを解消する手段として生まれたことは分かった。しかしどうして、それを頭につけようと思いついたのだろう。
「スピーカーを手がけるずいぶん前、入社してからは7年以上にわたって、私はヘッドフォンを担当していたんです。その時に、どうしてもヘッドフォンを使うのがイヤだという人たちがいることを知りました。彼らの多くは定位感を気にしていて、頭の中に音像が凝縮されてしまうことに違和感を受けてしまうのだそうです」
「そういった人たちにも受け入れられる、普通のスピーカーのように左右に音像の広がりのあるヘッドフォンを作れないかという思いは以前から持っていたのですが、このバスレフポートが飛び出した小型スピーカーを利用すれば、そういった人にも満足してもらえる製品ができるかもしれないと思い立ったのです。そうしてPFR-V1の基本形である、耳の前にスピーカーを置くというスタイルに考えが至りました。一昨年の11月ぐらいですね。実のところ、構想自体はほんの30分ぐらいで思いついたんですが(笑)」(山岸氏)
「そのころ私は久し振りに車載カメラのグループから現在のアクセサリーのグループに戻ってリモコンのメカ設計をみていたわけですが、山岸がまた変なことやっているなあ、と遠目で眺めていました(笑)。けれども実際に音を聴かせてもらうと、これまでのヘッドフォンとはまったく違う画期的な製品でした。これは面白いと思い、一緒になって製品化することにしたんてす」(山口氏)
しかし製品化までには、クリアしなければならないさまざまな課題があったという。
「なかでも,どうやって頭に固定するかが最大の難関でした。PFR-V1はご覧のとおり、スピーカーユニットを耳の前に浮かせるというユニークなレイアウトです。バスレフポートを耳に当てればある程度は位置が定まるのですが、それでは耳が痛くなってしまうし、多くの人にほぼ同じ位置で聞いてもらうためには、汎用性が必要でした」
「最初は耳かけ式を考えていましたが、人によって耳の大きさやカタチが結構違うため、それでは対応しきれない可能性がありました。また僕のようなメガネを掛けている人だとそのツルと干渉してしまい、装着感がとても悪い。そこで考えついたのが、ヘッドバンドの下端へ前後方向に長さのあるガイドを取り付けることです」
「これを使い直接頭へ固定することで、多くの人に対応した確かな装着性を実現できました。それと、バスレフポートを耳穴の入り口に合わせるための可動部にも工夫を凝らしています。こちらは最初水平方向に回転する構造を考えていたのですが、これだと装着する際の動きが複雑で、装着時に手間がかかる。そこでユニット部を支えるアーム部を垂直方向に回転させることで、一般的なヘッドフォンに近い“ユニット部を外側に広げ頭にかぶせる”という自然な動作での装着を実現しました。」(山口氏)
PFR-V1のデザインは、実は機能性を突き詰めた結果だった。そのスタイリッシュさからは想像してなかったストーリーだ。さらに山口氏は、軽量化に対する追求も話してくれた。
「最初はSRS-AX10をベースにもう少し大きなスピーカーユニットで試作を続けていたのです。ですが、いくら製品が“ヘッドフォンではなくあくまでもスピーカー”だったとしても、頭に装着するものですから、重たくなるのは避けたかった。そこでスピーカーユニットはさらに小型のものにするよう、山岸に改良を進めてもらいました」
「同時に各部の素材についても検討しなおし、ヘッドバンドを超ジェラルミン製、アームとスピーカーキャビネットをアルミダイカスト製としました。ヘッドパッドを使うことに決めたのもこの頃です。最初は軽量化のため採用を見送っていたのですが、試しに100円ショップで買ってきたメッシュ包帯を取り付けてみると、これが意外に装着感が良かったんですね。そこで軽量でありながら伸縮性が高く、しかも通気性があり蒸れにくい、水着に使われる生地を使用したヘッドパッドを採用することにしたんです」(山口氏)
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