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「スピーカーにストロー」の発想――ソニー「PFR-V1」の生まれるまで(3/3 ページ)

» 2007年11月14日 08時30分 公開
[野村ケンジ,ITmedia]
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 製品化が具体的になってくると同時に、「リスニングルームを持ち運ぶ」というコンセプトも明確化してきたPFR-V1。そのこともあって、次の課題として浮かんできたのがサウンドクオリティーと高級感だった。

 「最初は3万円という目標価格を設定して開発を進めていました。けれども新たなカテゴリーの製品なので、コストに妥協しないで最良のものを作り上げようという話になってきました。そこからはもう、2人とも歯止めがききませんでしたね(笑)」(山岸氏)

 「音質向上と軽量化のために、高級素材をどんどん投入していきましたよ(笑)」(山口氏)

 「もっともコストのかかっているのはスピーカー周りです。まずは小型化と高音質を両立するために、スピーカーキャビネットをアルミダイカスト製にしました。バスレフポートもアルミ製のパイプとし、ネジを切ってキャビネットにしっかりと固定する構造を採用しました」

 「もちろんユニット自体にも高級素材をふんだんに使用しています。まず磁石には、工業用として出荷されているモノの中では最高の440kJ/m3の最大エネルギー積を持つネオジウムマグネットを2つ使用。その間に挟んだり後方に置いて磁気回路を構成するプレートやヨークには、一般的に使われる純鉄などに比べて飽和磁束密度が高くサビにも強いパーメンジュールを用いて、強力な磁気回路を作り上げています」

 「振動板にもこだわりましたよ。素材はパルプで、長良川の伏流水ですいた紙を使用しています。しかも未着色。一般的にパルプ振動板は黒が多いのですが、実際に聴いてみて未着色のほうが音が良かったのでそちらを採用することにしました。製造ラインでは、この振動板を作る際にすべての製造機器を洗浄しなければならないので、言葉にならない悲鳴が聞こえていましたが(笑)」(山岸氏)

photo 音質重視のパーツを厳選し、コンパクトサイズを実現するために4層基板となったブースターユニット

 「PFR-V1は多少とはいえ耳から離れているため、携帯プレーヤーなどのヘッドフォン出力では電圧が弱い場合が有ります。そこを補うために電池駆動式のブースターユニットを付属しているのですが、こちらも最終的にはかなり凝った造りになりました」

 「パワーICやコンデンサーを音質重視で選び出したばっかりに、コンパクトなサイズを実現するために4層基板を採用することになってしまいました。普通そこまではしないよ、と社内でも言われてしまいましたが(笑)」(山口氏)

音とデザインの落としどころ

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 PFR-V1を試用している際、僕にはどうしても結論を見いだせなかった疑問が2つある。ひとつは「音場の左右方向への広がりは素晴らしいものの、センター部分が前頭葉あたりを横切るのを解決していないのはなぜか」ということ、もうひとつが「ピュアオーディオ用にも活用できる高音質を持ち合わせていながら、低域増強のクセがAV的なのは何故か」ということだ。これらの疑問を、思い切って訊ねてみた。

 「ステージング(定位)に関しては、色々と検討しました。スピーカーをほお骨より前に出せば完全な頭外定位が実現するのですが、そうすると今度はスピーカーが視界を妨げてしまううえに、かなり不格好な装着スタイルになってしまいます。それを避けつつ頭外定位をある程度実現できる位置として結論づけたのが、PFR-V1のデザインです」(山口氏)

 「DSPなどで定位をコントロールすることも考えられるのでしょうが、PFR-V1が新しいコンセプトを提案する最初のモデルであること、高級素材によって作り上げられたハイクオリティーサウンドをダイレクトに味わって欲しいことから、今回はそういった手段を使わないことにしました。それに、定位が近いと迫力が増すというメリットもありますしね」(山岸氏)

 確かにそのとおり。我が家で100インチスクリーンを見ているときは、映像に相当の迫力を付け加えてくれたのは事実だ。そういった角度から見ると、今の定位も悪くはない。ではもう一方の、低音増強に見られるクセはどういった意味合いがあるのだろう。

 「それはもともとのターゲットが、映像コンテンツであったことに由来するかもしれません。ただし途中から“妥協せず”作っていいというお墨付きがでましたので(笑)、ピュアオーディオ派も充分に楽しめるサウンドを実現できたと自負しています。あえてフロア型スピーカーに例えると、上質な20センチ・2ウェイ型と同等のサウンドは確保できているのではないでしょうか」(山岸氏)

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 そういって山岸氏は、完成したプロダクトモデルを試聴させてくれた。先日借用したサンプル版とパーツは同じながらも、組み立て精度が上がったためにさらに音質が向上したという。

 確かに山岸氏の言うとおり。僕が気になっていた低音のクセが解消されたうえ、ピークが低域側にスライドしたため、全帯域にわたりかなり自然な音色に生まれ変わっている。このサウンドであったら、ピュアオーディオ派も充分納得できるはずだ。

 次のステップとしてはどんなことを考えていますか、という質問に「単なるバリエーションではなくて、PFR-V1と並ぶ個性的な製品を作り上げたいですね」と楽しげに答えてくれた山岸氏と山口氏。ぜひ今後も、こういった意欲的な製品を次々と作り上げて欲しいと、いち音楽ファンとしても切に願うばかりだ。ソニーの今後に、多大なる期待を寄せて見守りたい。

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