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「S2000シリーズ」にみる“オーディオのヤマハ”の復活ピュアオーディオの世界へようこそ(2)(2/2 ページ)

» 2008年01月30日 21時11分 公開
[本田雅一,ITmedia]
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 さて、肝心の回路についても紹介していこう。電気回路の面でS2000シリーズを特徴付けているのが、全段フルバランスの設計ポリシーである。

 バランス設計とは信号電圧のプラス方向、マイナス方向に対して、それぞれ別々のアンプを配する設計のことだ。通常は特性の近いNPNトランジスタとPNPトランジスタを用いて両極のアンプ回路を設計するが、S2000では両極のアンプに同一極性(NPN)のトランジスタを用い両極側に“プル”する新しいバランスアンプ回路を設計、採用している。

 この新回路は「フローティング&バランス・パワーアンプ」と名付けられているように、グランドがフローティング設計になっており、グランドに混入するノイズが音質に大きく影響するバランス回路の問題を回避できるほか、異なる極性のトランジスタで似た特性のものを選別して採用する必要がなくなる(同一ロットの同一極性トランジスタで良い)という利点がある。

 特に品質の高いグランドラインを取りづらい日本の住宅事情を考えると、非常に合理的だ。背面を見るとACインレットはグランドピンのない2P構造となっており、アースループなどの面倒なことを考えることなく、極性のみを合わせてACコンセントから電源を取ればパフォーマンスを発揮できる。

photo CD/SACDプレーヤーの「CD-S2000」は17万6400円

 こうしたバランス設計のポリシーは、CDプレーヤーの「CD-S2000」も同じ。バーブラウン製のハイエンドD/Aコンバータを差動モードで動かし、その出力をディスクリート設計のバッファアンプを通じてバランス出力端子(XLR)に出力する(もちろん、別途、アンバランス出力も備えている)。

 さらに振動に敏感なドライブ部は高剛性の新機構となっており、デザイン上のワンポイントにもなっている薄型のアルミダイキャストトレイが採用されている。

ハイスピードのミッドバスと表情豊かで伸びやかな中高域

 肝心の音の方は? というと、こちらは全く懐古趣味的な雰囲気とは無縁の世界。非常に洗練されたクリーンな中高域から高域にかけての透明感あふれるタッチ。しかも、硬さを伴うものではなく、柔らかさと硬さを音楽の表情に合わせて描き分ける懐の広さがある。パワフルさで押し通すのではなく、しなやかさをもって音楽の表情を紡ぎ出すという印象だ。かといって奥に音が展開する奥ゆかしさだけでなく、明るく前へと出てくる若々しさもある。開放的でありながら、きちんと奥行きも感じる絶妙のチューニングだ。

 一方で低域は特にミッドバス、100〜200Hzあたりのジャズやロック、ポップスの低域を演出する上で重要な帯域が、実にスピード感溢れ、お腹にグッと迫ってくる力強さを感じる。豊かさや厚みといった要素でミッドバスを演出するのではなく、あくまで正確に高速でスピーカーを追従させるような、タイトだが瞬発力のある音だ。

photo S2000シリーズの背面端子

 実はプレーヤーとアンプをバランスケーブルではなく、アンバランスケーブルで接続してやると、中低域から低域にかけての表情が変化してくる。アンバランス接続にすると、もう少し厚みが出て量感も感じさせるようになるのである。また中域も含め、全体にやや音像が甘くなるものの、その分、ゆったりとした余裕のようなものが出てきてリラックスできる。

 手持ちのCDプレーヤーからアンバランス接続で聴いてみると、やはり厚みやゆったり感が出ているので、これはA-S2000の入力端子ごとの特性の違いが出ているのだろう。

 例えばバイオリニスト・Viktoria MullovaのSACD「Beethoven, Mendelssohn: Violin Concertos」では、冒頭からバランス接続時の低域分解能の高さに感嘆した。このクラスの製品で、低域を豊かに鳴らすだけでなく、きちんと質感が解像して目の前に現れることなどあまりないことだ。一方でバイオリンのソロパートは刺激的なノイズはなく、非常に透明感溢れる音が表情豊かに展開される。

 ダイアナ・クラールのバック演奏でも知られるAnthony Wilsonがリーダーを務めるトリオのSACD「Our Ganghybrid」でも、緊張感のある即興的演奏の息づかいが、適度なホールトーンとともに音場を包み込み、音と音の間に流れる空気感をきちんと伝えてくれる。こちらもバランス接続の方がいい。

 一方、ポピュラー音楽からとピックアップしたMichael McDonaldのSACD「Motown」では、両接続とも魅力的。バランス接続時はタイトな、狭いスタジオでの録音風景を思い起こさせる雰囲気に魅力を感じたが、アンバランス接続にした際のリラックスして聴ける、良い意味での曖昧さや中低域の量感や厚みも悪くない。

 総じて音楽を再生する道具として、大変に魅力的な製品だ。久々のピュアオーディオ作品ということで、どのような製品になるのか興味津々だったが、特にアンプに関してはブランクを感じさせない独創的な仕上がりである。個人的には、これだけ良い結果を引き出せるのならば、もう少し高い値段を付けてシャシーを強化したモデルにしても良かったのではないか? と思うほどだ。

 全段バランス設計という、オーディオファンにはたまらない回路構成を採用しつつも、コストを抑え、さらに日本の電源事情に合った柔軟な設置性を実現していることも見逃せない。イージーで上品な美しさを備えつつ、オーディオ機器として本格派。今後のシリーズ展開にも大いに期待が持てそうだ。

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