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「ワーナー・ショック」の本質麻倉怜士のデジタル閻魔帳(2/3 ページ)

» 2008年02月08日 11時14分 公開
[渡邊宏,ITmedia]

――ですが、シングルフォーマットを求めるという考えと、BD/HD DVDの両支持は矛盾するのではないでしょうか

麻倉氏: ワーナーは当初、HD DVDの30Gバイトで十分という考えを持っていました。では、なぜBDの採用に踏み切ったのか? それはプレイステーション 3の登場です。私も以前、「シングルフォーマットを求めるという考えと、BD/HD DVDの両支持は矛盾するのではないか」と尋ねましたが、シングルフォーマットを求めるためにも、双方をリリースして最終的に市場の判断に任せるという考えに変化していたようです。「2つのフォーマットをサポートするのは大変なのでは?」とも聞きましたが、「ゲームを含めれば私たちは7つのフォーマットをサポートしている」と切りかえされました。

photo ワーナーがBD重視へ考えを転換するきっかけになった「プレイステーション 3」

 そうして2007年1月に同社はBD/HD DVDのハイブリッドディスク「TotalHD」を発表します。当時はBD/HD DVDの両陣営ともに均等に大きく伸びると判断したのでしょう。ですが、その判断は現場からの意見というよりも、財務担当の思惑が大きく影響していたといわれます。シングルフォーマットという考えを持ちながらも、現実(市場)を分析して両面作戦に出たのですね。

 ですが、TotalHDは日の目を見ることなく、同社は同年秋にTotalHDを断念します。他のスタジオから理解を得られなかったということも理由のひとつに挙げられますが、2007年初頭からBDがみせた伸びが同社の予想を上回ったからでしょう。

 ソフトでいえば、HD DVDの方が先行したものの、BDの2007年の伸びはそれを大きく上回るものでした。市場では2007年1月にはすでに出荷量でHD DVDとBDは1:2となり、タイトルの種類も豊富になりました。ワーナーは2007年1月段階ではPS3にやや冷淡なスタンスを示していましたが、その後、「300」がPS3ユーザーに多く購入されたことから認識を改めたようです。決め手になったのは、2007年末に発売された「ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団」です。これはHD DVDとBD、双方のフォーマットで出荷されましたが、BDが出荷量で上回りました。

 ハードウェアの側面から分析もしてみましょう。東芝は秋にHD DVDプレーヤー「HD-A2」を99ドルでしかも最大7枚のソフトをサービスするというセールスを行い、反響を得ましたが、プレーヤーの出荷台数の割にはソフトが伸びませんでした。ユーザーはアップコンバート可能な高機能DVDプレーヤーとしてHD DVDプレーヤーを購入していたという側面が強かったのですね。

 BDプレーヤーは2007年に50万台が出荷されましたが、PS3は300万台を出荷しています。300万台のうち、25%がBDプレーヤーとして利用されたと仮定(これはワーナー・ホーム・ビデオの見方)しても、75万+50万台の125万台のBDプレーヤーが市場に投入されたことになります。これは市場を動かすに十分な数といえます。

 一方のHD DVDですが、プレーヤーの出荷台数は公表されていません(International CESで東芝が同社製品を含めたHD DVDプレーヤーの出荷が100万台に達したと発表している)。ですが、PC用ドライブやXbox360用外付けドライブを含めれば再生環境はかなり市場に存在するはずです。それでもHD DVDソフトの出荷量が伸びなかったことが、ワーナーにとってきわめて大きな問題でした。HD DVDのハードウェアは売れているのに、HD DVD用ソフトがそれほど売れていかない……。そうして迎えた2007年のクリスマス商戦、PS3は値下げを行い大きなヒットを呼び、BDソフトも大量に売れました。プレーヤーではソニーがナンバーワンになりました。ユーザー(市場)がどこを向いているか、はっきりしてしまったのですね。

フォーマット戦争の終わり

――そうして年頭のワーナーのBD一本化へと話がつながる訳ですね。

麻倉氏: ええ。戦略的に考えても、ワーナーがHD DVDを選択する理由はなかったと考えられます。ただでさえDVDの販売が伸び悩み、同時にHDソフトの市場が予想よりも伸びていなかったのですから、BDとHD DVDという2フォーマットが併存することでユーザーが買い控えすることはなんとしても避けたいという判断があったことは容易に想像できます。

 ワーナーとしては、ユーザー(市場)にBD/HD DVDの選択をこれ以上ゆだねるのではなく、自らが動くことでBDを優勢に導き、HD市場発展のバリアを排除する必要があると考えたのでしょう。それは「HDテレビが売れているのに、なぜ次世代DVDは伸び悩むのか」という状況を打破するための、極めて自然な選択だったと思います。

 ワーナー自身は東芝と良好な関係を維持していますが、HD DVDを採用することはないと言っています。今回の発表がなぜ1月4日(現地)だったかといえば、そのタイミングしかなかったのです。これまで述べたような市場の動きも理由ですが、実は今回のInternational CESでHD DVDプロモーショングループが行う発表会の幹事役はワーナーだったからです。ワーナー・ホーム・ビデオの決断の裏話は、「HiVi」(ステレオサウンド)3月号で詳しく書きましたから、ご覧下さい。

 「フォーマット戦争の終わり」が始まりました。あとはユニバーサルとパラマウントが決断すれば、戦争自体がなくなります。レコーダーは自己録再機器という側面もありますが、プレーヤーはソフトあっての存在ですから、ソフト供給を行うスタジオが決断すれば、戦争は終わります。

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