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“東芝、HD DVD撤退で調整へ”報道を読み解く本田雅一のリアルタイム・アナリシス

» 2008年02月16日 22時36分 公開
[本田雅一,ITmedia]
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 2月16日、NHKが夜のニュースで「東芝HD DVD撤退で調整」と報じた。しかし、1月のワーナー離脱BDの寡占が進んだ後も、HD DVD撤退の動きは(少なくとも東芝デジタルメディアネットワーク社においては)なく、あまりに唐突な情報という印象がぬぐえない。主席技監の山田尚志氏なども、中国でのCH-DVD(中国版HD DVD)で積極的に活動していた。

 HD DVD搭載ハイビジョンレコーダーの「RD-X7/A502/A302」の発表・発売が大幅に遅れたという情報は耳にしていたが、これはH.264エンコーダーの改良に伴ってソフトウェアに不具合が出たためで、いまだ出荷・販売の意志は変わっていない。

 加えてNHKの報道にあった「青森の工場」では、現在はHD DVD関連製品を全く作っておらず、レコーダーも含めて中国で生産されている。また、その中国の工場でも、HD DVD関連製品が常時ラインに流れているわけではないだろう。

 そこで東芝DM社のHD DVD戦略担当者に連絡を取ったところ、「HD DVD事業から撤退する結論は出していない。撤退について公式な会議の場で議論もしていない」と完全に否定した。「撤退に関してDM社は何も判断していないし、撤退のシナリオもない」。おそらく、このコメントは真実だろう。

 今、撤退を決めれば大量の返品がある上、関連する各社の事業にも大きく影響する。全く、なんの根回しもなしに東芝DM社が撤退を決めることはないと考えられる。東芝DM社としては、たとえ撤退するとしても、盟友であるユニバーサルやパラマウントがHD DVD撤退をアナウンスした後に表明したいと考えるに違いない。

 しかし、根も葉もないニュースかと言えば、それも違うようだ。こうした報道の場合、必ず情報源がある。今回の場合、撤退に向けて調整するという情報源は“東芝関係者”とされている。つまり、これは東芝DM社ではなく、東芝本社からの意図的な情報リークというのが、もっとも可能性としては高い。

 東芝本社はHD DVD事業に関して、昨年末までの積極的な発言から一転し、今年に入ってからは「数多く行っている事業の1つでしかない」と西田厚聰社長が発言するなど、かなり冷めたコメントへと変化していた。1月のワーナーショック以後、レンタル事業者のネットフリックス、家電量販最大手のベストバイ、さらに流通最大手のウォルマートがBD支持を打ち出すなど、流通側のBDシフトが明確になったことで、予定よりも早く撤退への方向を模索し始めたと推測できる。

 リーク報道のタイミングからすると、情報がリークされたのは土曜日の午後だろう。このタイミングならば翌日の新聞記事には間に合い、月曜日に東芝が動き始める頃には“東芝HD DVD撤退へ”が周知となり、既成事実化してしまっているのは間違いない。そうなれば、東芝全体の組織としても撤退の方向へと踏み出しやすい。

 ただ、今回のリークの意図が何であれ、BD対HD DVDという長きにわたったフォーマット戦争は、いよいよ最終局面へと向かっている。筆者の所にこうした記事の依頼がやってくるということは、報道機関の動きも連動することを示している。明日の朝刊は、各紙とも「東芝、HD DVD撤退で調整へ」と一斉に報じるだろう。

 前述したように東芝DM社は撤退の意思表示を行っていないが、HD DVDの問題はDM社だけに留まるものではない。東芝PCネットワーク社の販売するAVノートPCの企画開発、それに販売面にも大きな影響を及ぼすだろう。今も「PC畑出身」と話し、青梅事業所にも積極的に足を運ぶ西田社長がリーダーシップを取って問題解決に向けて動き出したのであれば、来週にはさらに大きな動きとなるはずだ。

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