コラム
» 2008年03月17日 08時30分 UPDATE

小寺信良:「児童ポルノ法改正」に潜む危険 (3/3)

[小寺信良,ITmedia]
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「準児童ポルノ」の無茶

 もうひとつの改正ポイントである準児童ポルノの定義は、「アニメや漫画、ゲームなどで児童を性的に描いたもの」、あるいは「児童の性的な姿態や虐待などを写実的に描写したもの」だそうである。つまり実写の人物ではなく所詮は描いた絵であるから、実際の児童の性的虐待自体がないわけだ。それにも関わらず、絵でも違法化するということである。また実写の場合でも、18歳以上が児童の格好をするのもダメということらしい。

 これは平たく言うならば、「萌え」の解体である。この規制のベースは、「性的虐待の表現を目にすることで、人は性的虐待に走るようになる」という思想が感じられるが、果たしてそうだろうか。これは、本来逆の話だ。つまり元々そういう性的指向のない人は、いくら児童の性的虐待表現を目にしても、ただ嫌悪感を感じるだけである。一方実犯罪に走る人は、別にこういった表現があろうとなかろうと、何かのきっかけで引き金は引かれるのである。

 これは、暴力的な表現を見た子供が、そのまま暴力的になるわけではないということと同じである。もしそうなら、1980年代に「北斗の拳」に夢中になった今の30代は、最終核戦争を起こしていなければならない。

 また、どういう表現したらポルノと言えるのか、という線引きもないに等しい。エロに見えるかどうかは、これもまた人それぞれである。以前「エロかわいい」ファッションが流行ったこともあったが、おじさんから見れば子供が冬にヘソ出して風邪引くぞーぐらいにしか思わない。そのものズバリでない以上は、もはや想像力の範囲である。

 さらに「写実的に描写したもの」となれば、それはほとんど主観の問題になってしまう。バニーガールをものすごく写実的に描いたあげくウサギに見えた場合は、どんなにエロくてももはや人ではない。それに欲情する人は、もはや誰が何をやっても止められはしないところまで行ってしまっているのである。

 そう考えると、どうも規制しようとする対象と、リアルに児童を性的虐待する人間像の間に、大きな隔たりがあるように思う。日本ユニセフ協会のサイトにある「子供ポルノ日本の現状」と題されたスライドショーには、イメージ映像として秋葉原の昭和通りの画像が使われている。要するに、アキバの店頭などで見かける扇情的なアニメ画なども一掃したいと考えているのだろう。

 確かに店頭の萌え絵は、ある日一線を越えた時があったように思う。正確には記憶していないが、おそらく2002年か03年ぐらいのことだったか。それまでもいわゆる萌え絵看板は存在したが、ぱんつが見えているものはなかったように思う。しかしその日筆者は、初めてばんつが見えている萌え絵看板を目撃した。たぶんそのあたりを境にして、なんとなく表現が解禁になっていったように思う。

 しかしそういうものは、何も児童ポルノ法をいじくらなくても、猥褻物陳列罪(刑法題第百七十五条 わいせつ物頒布等)で取り締まれる範囲である。店側もどっちみち18禁で売るわけだから、入店を年齢制限しているはずであり、その中で展示すれば済む話である。

 アキバから生まれる、あるいはアキバで消費されるコンテンツや文化は、これから電気・電子機器に代わって、日本の主要輸出産業となるサブカルチャーである。巨大産業として注目される「コミケ」も、ようやく著作権特区としての方向を見いだしたばかりだというのに、この法案が通れば壊滅的な打撃を受けるだろう。

 またこれらのコンテンツがあるから、実際の性犯罪が抑止できているという考え方もできる。つまり、そういう萌え絵に反応する人たちは、アニメ絵だから反応するわけで、現実の子供には興味がないものである。逆にアニメ絵を規制してしまったら、現実の子供に走る可能性が出てくる。親としては、むしろそっちのほうが困る。

 子供を性的虐待から守るという目的は筆者としても同意するところだが、規制強化への改正案は、方法として間違っている。単にオバチャンが見たくないものを感情的に取り締まるということではなく、もっと心理学の面に踏み込んだ議論がなされるべきであろう。

 児童ポルノ法第三条には、「この法律の適用に当たっては、国民の権利を不当に侵害しないように留意しなければならない。」とある。少なくともこの条文がひっくり返るようなことがあってはならない。

小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作は小寺氏と津田大介氏がさまざまな識者と対談した内容を編集した対話集「CONTENT'S FUTURE ポストYouTube時代のクリエイティビティ」(翔泳社) amazonで購入)。

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