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ネットワークに注力する異色の高級オーディオ、リンの製品戦略(1/2 ページ)

» 2008年03月17日 13時11分 公開
[本田雅一,ITmedia]

 数ある高級オーディオブランドの中でも、スコットランドのLINN Products(以下、リン)は、とりわけ異彩を放つメーカーだ。力強さやキレの良さをひたすらに追い求めるのではなく、リスニングルームを音楽で満たす心地よさを表現する独特の箱庭的な音楽的バランス感覚。重厚な作りよりも、生活の中にとけ込むデザインやシステム提案など、ほかの高級オーディオブランドとは異なるキャラクターを持つ。

 そのリンが今年、もっとも力を入れようとしているのが「DSシリーズ」である。DSシリーズとは「Digital Streaming」の略で、ネットワークを通じて音楽を再生するいわゆるネットワークオーディオの類だが、リンのDSシリーズが異なるのは、圧倒的に音質が良い(ハイエンドのCDプレーヤーをも凌駕する)ことである。

 DSシリーズの開発陣頭指揮を執ったギラッド・ティーフェンブルン氏に話を聞いた。

photo DSシリーズの開発陣頭指揮を執ったギラッド・ティーフェンブルン氏

――今年、リンが最も力を入れているのは、やはりDSシリーズということになるでしょうか?

 はい。DSを将来の音楽の形として、世界的にプロモーションしていくことがわれわれの一番の仕事です。一般にインターネットでの音楽配信や、家庭内でのネットワークを通じた音楽データの共有といったアプリケーションは、利便性を求めた結果、iPodのような形で普及すると考えられています。それは一面で正しいのですが、オーディオファイル(音質にこだわる顧客層)やハイファイ製品の業界にとっても重要なテーマでしょう。(ネットワークオーディオは)音質面のパフォーマンスと利便性の高さ、その両方を最良のコンビネーションで得ることが可能だからです。

――確かにデジタルでの音楽再生を考えると、光ディスクは音質低下の大きな要因になっていました。同じマスターでもCDにスタンプする前のデータをDATに録音した方が、遙かに良い音になるのは録音エンジニアには常識でしたし、CDはハードディスクや半導体メモリに(圧縮せずに)リッピングした方が音は良い。もちろん、ネットワークでのシェアでも構わない。ただ、いずれにしても、そうした再生方法はパソコン的で、オーディオマニアには敬遠されがちでしたし、本当に高音質を狙った製品が市場になかったことも、消費者に「HDDやネットワークを用いたオーディオは音がいい」ということを理解してもらうことができなかった理由でしょう。ところが、こうした何もないところからリンはハイエンド製品の「Klimax DS」を投入した。なぜ、“超ハイエンド”の製品からDSのプロジェクトをスタートさせたのでしょう。

photo 国内でも2月に発売されたハイエンド製品「Klimax DS」。PCやNASのデータを音源とする新しいフラグシップ・ソースコンポーネントだ。価格は294万円

 これには非常に深い理由があります。DSの開発をスタートさせたのは今から3年前のことです。われわれはマルチルームへの音楽配信機能を備えるインストーラー向けオーディオシステムなどを商品ラインアップに持っていたためにDSの開発を行ったのですが、実際に作ってみると、おっしゃるようにCDプレーヤーよりも音が良いことに気付いたのです。それが約2年前のことです。

 ご存じのように、われわれはCDプレーヤーとしては世界最高峰の音質といわれた「CD12」という製品を持っていましたが、それよりも高いレベルの音質を実現できると、そのときに確信したのです。まずは最大限の高音質を対策を施し、どこまで音が良くなるのか、その可能性を見たかった。一度、そうしたハイエンド製品を開発してしまえば、あとはそのノウハウと技術を段階的に低価格な製品に落とし込んでいけばいい。最初の製品が超ハイエンドのKlimaxシリーズとなったのはそのためです。

――CDの音楽をリッピングしたり、ネットで音楽を購入するPCユーザーのコミュニティと、純粋にハイエンドオーディオのクオリティを求めるユーザーのコミュニティは全く異なりますよね。それでもここまで強くDSにコミットしたのは、何かの確信があったからでしょうか?

 PCとハードディスクを活用したデジタル音楽のリッピングと配信は、すでに「Kaiver」という製品で経験していました。この製品はリッピングした音楽をアナログ化し、高音質の長距離伝送技術で各部屋に音楽を配信するシステムです。そこでPCプラットフォーム上におけるソフトウェア開発の知識を学んでいましたし、オーディオ市場がPCに対してどのように反応するかを理解していたんです。

 加えてUMPCやMID、あるいは超小型ノートPCなど、無線LANにアクセスできる小型で手軽に使える機器が増えています。さらにDLNAといったオープンスタンダードの規格が発表され、それに合わせてオープンソースの開発コミュニティが発達。ネットワークオーディオ機器を開発し、それを市場が受け入れる下地もできていました。われわれの製品は、もちろんDLNAに対応していますし、UPnP AV Controlに対応したリモートコントロールも受け付けます。UPnP AV Control対応ソフトは、オープンソースベースでいくつかの製品が出ていますから、ユーザーは好みに応じてそれらを活用することも可能です。

photo Windows用の「LINN GUI」

――リンからは「LINN GUI」というソフトウェアが提供されていますが、それ以外にもあるということですね。もっとも、Windows用ソフトウェアだけでは、必ずPCを使わなければ音を聴けないということになります。もっとライトなプラットフォーム向けのコントロールクライアントはないのでしょうか?

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