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松下「DMR-BW900」で見る「ボルベール<帰郷>」の色彩美山本浩司の「アレを観るならぜひコレで!」Vol.10(2/2 ページ)

» 2008年03月19日 11時35分 公開
[山本浩司,ITmedia]
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ラテンの熱情溢れる最高の女性映画

photo 「ボルベール<帰郷>」。国内では1月に2枚組のコレクターズ・エディションとしてDVDがリリースされている。価格は4980円。販売元はギャガ・コミュニケーションズ。(C)EL DESEO, D.A, S. L. U. M-50529-2005

 ボルベール<帰郷>は、スペインの鬼才ペドロ・アルモドヴァル監督の2006年度作品。日本ではまだDVDしか発売されていないが、ぼくは昨年秋に発売された米国盤BDをいち早く入手、その色彩設計の見事さと女優さんたちの芝居の素晴らしさに胸を打たれ、英語字幕を頼りに幾度となく繰り返し観た作品だ。

 メインキャストとなる6人の女優全員がカンヌ国際映画祭で最優秀女優賞を獲得したというこの作品。類稀なるフェミニスト、アルモドヴァルが自分の故郷ラ・マンチャを舞台に描くラテンの熱情溢れる最高の女性映画だが、とくに主演女優のペネロペ・クルスがよい。娘であり母であるたくましい女性ライムンダの情熱と葛藤を、強烈な目力で現実を見据えながら、いきいきと演じきっている。ハリウッド作品に呼ばれて彼女が演じていたヒスパニックの類型的な“可愛い女”より、この映画のラテンの“強い女”のほうが断然彼女らしく、素敵だと思う。

 アルモドヴァル作品を観る楽しみの1つに、独自の冴えを見せる色彩設計を味わう歓びがある。アカデミー脚本賞を獲った「トーク・トゥ・ハー」(2002年)でも、眠り続ける女たちを愛するベニグノやマルコの部屋の暖色を見事に配置したインテリアがすごくよくて、ぼくは自分の部屋をリフォームするときの参考にさせてもらったりしたのだった。

 本作でも観る者をハッとさせる色の驚きを随所に散りばめているが、とくに素晴らしいのが、ライムンダ(ペネロペ・クルス)が切り盛りするリストランテで、映画の撮影クルーを迎えるパーティー場面。緑、黄、青、水色、朱、赤、橙色……乱舞する原色の中で、黒い大きな目をしたライムンダが、ギターをバックにタンゴの名曲「ボルベール」を歌いながら涙をこぼすシーンは何度観ても胸を打たれる。ここまでたくさん原色を散りばめながら、けっして画面が汚くならないことにまず感心するが、ライムンダの静謐な哀しみを豊かな色彩の中に描き出して見せるアルモドヴァル監督のセンスと手腕には、ただただ脱帽するのみである。

 さまざまな色が交錯するきらびやかなこのシーンをBW900で観ると、LX80に比べてまず色のキレがよく、コントラストが際立つ印象。屹立したピークの力感により、ペネロペの意志的な目が観る者に強く迫ってくるのである。

 この色がシャープに切れることによって得られるダイナミック・コントラストの豊かさは、本機に採用された高性能MPEGデコーダーの効用に依るところが大きい。

 DVDでもそうであったが、ハイビジョン放送やBD ROMでも、輝度情報に対して色(クロマ)情報を削減して映像信号を伝送しているのが実情だ。色よりも輝度に敏感な人間の視覚特性を利用し、輝度情報がすべて記録されている4つの画素それぞれに1つの色情報しか記録していないのである(4:2:0と表記される)。この4:2:0データを映像として表示する際に、全画素に色信号を乗せるクロマアップサンプリング処理を行なわなければならないが(4:4:4変換)、本機に採用されたMPEGデコーダーは、従来の他社製デコーダーの数倍の色情報を参照して、より精度の高い色信号の生成を実現しているのである。

 これは、パナソニックハリウッド研究所(PHL)で画質評価を行なう際に開発された手法が移植されたもので、長年に渡りハリウッドで映画制作の最先端技術をウォッチし、そのハイクォリティなHD化に尽力してきたパナソニックの面目躍如たる貴重な技術資産であるのだ。

 この高性能MPEGデコーダーを組み込んだ、本機に採用された大規模LSI「UniPhier」(ユニフィエ)は、まさに本格BD時代を象徴するお宝と言ってもいいだろう。BD JAVAでプログラムが書き込まれたディズニー系BD ROMなどの解読もプレイステーション3を除く他社製レコーダー/プレーヤーに比べると超速いし、その動作もきわめて安定している。

 そんなすごいLSIを積んだBW900だが、見た目はなんかチャチなビデオデッキみたいでガッカリさせられてしまう。なーんか家電チックなのである。趣味のAV機器としての凄味がまるで伝わって来ないのである。

photo オーディオテクニカの「AT-PC500」。コネクタとプラグは24K金メッキ処理だ

 電源ケーブルは着脱式のメガネ・タイプ2Pコネクター。そこで付属の頼りないケーブルをはずして、7アンペアと電流容量の大きなオーディオテクニカ製の「AT-PC500」(2メートルタイプ)に差し替えたところ、音質が激変した。低域から中域にかけて音に厚みが加わり、ペネロペの声にちゃんと肉がついてきたのである。情報量もより豊かになり、環境音のリアリティが増すことで、ラ・マンチャの空気感がより濃厚に感じられるようになってきた。

 パナソニックは以前、砂型鋳物を筐体に用いた、音のよいDVDプレーヤーを発売していたことがあったが、CDをはるかに超える高音質フォーマットでマルチチャンネル音声が収録されるBD ROMの実力を満天下に知らせる、音質をケアした機械としての信頼度の高いBDレコーダー(できればプレーヤーも)をぜひ作ってほしいものだと思う。本機のHDMI出力の音質の素性はかなりよさそうなので、まず筐体と電源回路にもう少しお金をかけることができれば、オーディオマニアもビックリの高音質が期待できる。

 本体をしっかり支える脚の付いていない(!)機械を、ぼくは自分の大切なスクリーン・システムに組み込む“気分”になかなかならんのです。

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