コラム
» 2008年04月14日 08時30分 UPDATE

小寺信良:臭いものにフタをしても、何一つ解決しない (1/3)

「青少年ネット規制法案」とも呼べる、青少年のネット規制に関する法案が提出されようとしているが、単純に有害情報を遮断するだけでは、子供は何が悪いのか知らないまま成長してしまう。

[小寺信良,ITmedia]

 多くのネット住民およびジャーナリストの努力により、児童ポルノ法改正案の根拠がグダグダなのが明らかになったわけだが、今度はまた新しく物騒な法案が自民、民主両党から提出されようとしている。自民党案では「青少年の健全な育成のためのインターネット利用による青少年有害情報の閲覧の防止等に関する法律案」となっているが、長いのでここでは便宜的に「青少年ネット規制法案」と呼ぶことにする。

 この法案は、18歳未満の青少年に有害情報を閲覧させないようにすることで、青少年の健全な育成に寄与することを目的としている。ここで想定されている有害情報とは、平たく言えば「わいせつ」「人死に」「犯罪」「売春」「薬物」「いじめ」「家出」などである。これら有害情報の基準は、内閣府に新たに委員会を設置して、そこが判断することになっている。

 そしてこれらを実現するために、ネットに関わる多くの企業や個人に責任が分担される。まずWebサイトの管理者、接続プロバイダには、有害情報の管理責任が発生する。またPCメーカーや携帯電話会社には、フィルタリングを行なうことが義務づけられる。携帯電話のフィルタリングはすでに4月から実施されているが、それと同様にPCにもフィルタリング導入をデフォルトにする、という話である。

 この法案の特徴は、フィルタによって一方的に情報を遮断するだけでなく、フィルタが正しく動作するために、事業者や情報を公開している人すべてにまで踏み込んで、何らかの責任を負わせるという点である。子供のために、と思えば多くの人が納得してしまいそうな法案だが、やっぱりここでも、ネット音痴ならではのムチャ、親子の意見不在の構造が見える。

ネット上の責任

 まずサイト管理者やサービス事業者に対するムチャを上げてみよう。まずWebサイトの管理者、これは個人サイトでも企業が運営するサービスでも区別なく、自ら有害情報を書き込むとき、または第三者から有害情報が書き込まれたことを「知った」ときには、18歳以上のみの会員制サイトに移行するか、うちは18禁ですと看板を掲げなければならない。

 自分で悪いことと知ってやっている人間が、わざわざ自己申請するとは思えないから、そうしたWebサイトは単純に国外のサーバへ拠点を移すだけで現状は何も変わらないだろう。問題は、一方的に有害情報が書き込まれる可能性があるサイトである。

 例えば個人サイトのコメント欄に、有害情報が書き込まれたとする。それを知ったら、会員制にしなければならないのだ。もしくはトップページを作り替えて、「あなたは18歳以上ですか」「はい」「いいえ」といった選択肢を設けるとか、フィルタリングソフトを作っている会社に電話とかFAXとかで、「すいません、僕のサイトこのたび18禁になりましたので、フィルタのブラックリストにうちのURLを載せていただくわけにはまいりませんでしょうか」と連絡しなければならないわけである。笑っちゃうよね。いや笑っちゃイケナイか。敵は大真面目なんである。

 今、多くの人が個人ベースで情報発信をしているのは、ブログである。ブログはご存じのように、システム化されたものをカスタマイズして使うだけなので、自分の意志でサイトの構造を変えるのは難しい。ブログ提供企業は、システムの大幅な設計変更を余儀なくされるだろう。

 これを大真面目に運用するならば、どこかのサイトの足を引っ張りたいと思った人間が匿名で有害情報を書き込めば、簡単に妨害できるということを意味する。会員制サイトへの移行の手間やコストは、誰も負担してくれない。 また18禁サイトを名乗れば、イメージダウンは免れない。逆に健全な利用者ほど、離れていくだろう。

 これらの勝手な書き込みに関するトラブル対策は、民間の調整機関を設立することになっている。当然この機関は、すぐさま仲裁要請や相談であふれかえるだろう。問題解決に2週間待たされるとしたら、ビジネスでやっているサイトはその間、大きな経済的打撃を被る。しかもそれは1回ではなく、不特定多数を相手にいつ果てるともない戦いを強いられることになるのだ。

 またこの民間の調整機関には、法的拘束力がない。負けた相手が「知るかよ」と居直ってしまえば、結局は裁判所まで足を運ぶことになるのだ。しかしそれは、自由なネットビジネスとしてはシュリンクを意味する。

 この法案の巧みなところは、サイト管理者やプロバイダに、書き込まれた情報の削除義務を課していない点だ。なぜならばそれは、表現の自由を規制することになるからである。しかし上記のような面倒くささを考えれば、個人の管理者は自主的に、書き込まれた情報を削除する道を選ぶだろう。そして事実上、自分のサイトの書き込みを念入りに監視していなければならないことになる。

 プロバイダ側も自分の管理下のサイトに有害情報が含まれていたら、サイト管理者に何らかの措置を行なうよう求めなければならないので、常時巡回してコンテンツを精査する責任が発生する。大きなサービスプロバイダにとってはとてつもない費用になるだろうし、零細なところは手が回らず、サービス自体を停止しなければならなくなるだろう。

 いずれにしてもネット全体の情報量と自由度は激減し、有害情報があってもなくてもその監視責任だけで疲弊し、今のネットの形は破壊される。

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