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臭いものにフタをしても、何一つ解決しない小寺信良(2/3 ページ)

» 2008年04月14日 08時30分 公開
[小寺信良,ITmedia]

フィルタリング運用の問題

 次にフィルタリング導入に対する無理を挙げていこう。PCによるフィルタリングには、プロバイダが行なうWebサービスタイプのものと、PCのローカルディスクにインストールするタイプのものがある。

 この法案では、Webベースのサービス業者には、有害情報があると知ったとき、青少年に対してフィルタリングを施さなければならないという努力義務が生じる。サービス提供者は、有害情報があると知ってるからサービスを提供しているわけで、これはもう100%フィルタリングを施さなければならないわけである。

 しかし現実問題、今PCの前に座っているのが未成年者かどうか、プロバイダには見分ける術はないので、真面目にやるなら常時フィルタリングしなければならない。18歳以上は、この規制を外すためにいちいちパスワードなりを入れて、フィルタを解除しなければならなくなるのだろう。

 現在でも多くのプロバイダがスパムフィルタを無料で提供している。それに加えて有害情報フィルタも全加入者に対して提供するとなると、もはや無料では難しいだろう。フィルタエンジンの開発会社にも努力義務があるものの、導入コストを割引してくれるという約束があるわけでもない。

 消費者に負担を回せば、突然降ってわいたような負担に相当の抵抗があるだろう。これにつけ込んだ詐欺事件も発生するかもしれない。プロバイダとしても利用者の家族構成まで把握する訳にもいかないので、結局はワケが分かっている希望者のみ有償で提供するという、グルッと回って今と同じ状態になるだけではないのか。

 一方ローカルにインストールするフィルタはどうか。これはPCの製造メーカーに、フィルタソフトを組み込んで販売する義務を課すという。この「組み込んで」というあいまいな表現に、「あんたそれ使ったことないだろ」的なニュアンスを感じる。

 単にインストール可能なイメージファイルを入れておけ、という話ならば、コストは別にして、そう難しい話ではない。問題は、実際のインストールを誰がやるのか、ということである。親子が共用するPCなら、子供用のアカウントを作って、そこにだけ働くようにインストールすればいい。これは、親がやるわけである。

 では、親にはPCのスキルがないが、子供に買い与えるという場合はどうだろう。自分しか使わないPCに、子供が自ら進んでフィルタをインストールするとは思えない。ユーザーがインストールするタイプでは、現状と何も変わらないのだ。

 ではOSインストールののち、強制インストールするような作りにしたらどうなるか。これも親と供用の場合は大した問題にはならないが、子供が自分でインストールを行なったら、パスワードも自分で決めるわけだから、無意味である。そこだけ親が立ち会ってパスワードを入力する? そんなことは現実にありそうにない。

 またこの政策は、子供を持つ親の負担だけで済まない。デモ版ではなく正規版をプリインストールした場合、それに対するコストは、PCの価格に反映される。それを払うのは、子供がいる人だけに限らない。なにせどんな人が使うか、販売時点では分からないのだから、すべてのPCにプリインストールすることになる。当然フィルタが必要ないユーザーも、その分の価格を払うことになる。国が無駄なソフトを買うことを、強要するような事態になってしまうのである。

 筆者は実際に、子供用PCにフィルタリングを施してきた経験がある。そこから分かったのは、こういったフィルタリングを実際に運用するのは親であるということだ。年齢制限が子供の使用実態に合わない場合は、こまめに設定を変更しなければならない。もちろん子供の成長に合わせて、フィルタの年齢設定を変える必要もあるだろう。再起動が必要なアップデートならば親がパスワードでロックを解除して、アップデート作業をしなければならない。また1年ごとのライセンス更新も必要だ。決して手放しでは済まないのである。

 親の年齢を考えると、20〜30代半ばぐらいまでの人ならなんとかなるかもしれない。だがそれ以上の親になると、PCやネットのスキルがある人が少なくなっていく。有害情報の影響をもっとも受けやすいのは思春期の子供なので、当然親の年齢層も高い。肝心な年齢層の親に限ってスキルがないということは、米国のように国民全体のPCスキルが高くない日本では、現実にあり得るのである。

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