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インターネットの教科書を作ろう小寺信良の現象試考(3/3 ページ)

» 2008年05月12日 10時30分 公開
[小寺信良,ITmedia]
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手段はひとつではない

 つぎに保護者版の可能性について考えてみよう。おそらく保護者にとって必要なのは、子供を見守るための手段として「どんなメニューがあるのか」を知ってもらうことだと思う。現時点で考えられる方法はシンポジウムでも述べたが、大まかに

  • 1 ペアレンタルコントロール
  • 2 情報リテラシー教育
  • 3 フィルタリング
  • 4 そもそもパソコンやケータイを持たせない

 がある。4の場合は我々が出る幕はないわけだが、それ以外では、これらの手段を子供の性格や成長の度合いなどに合わせて、複合的に組み合わせていくことが望ましいと考えている。例えば小学生の場合は、ケータイやパソコンが自分自身の所有物であることは、ケースとしては少ないだろう。

 このような段階では、ペアレンタルコントロールが役に立つ。子供の情報アクセスに親の監視の目を入れることに対して、子供自身も抵抗がないと考えられるからである。もちろん親の目が届くところや、一緒にネットを使いながら、実地で情報リテラシー教育を行なっていくという事になる。

 一方、中学生になると、自分専用のパソコンやケータイを持つ率が増えてくる。これに加えて反抗期を迎えると、ペアレンタルコントロールは難しくなるだろう。親との接点を持つことを疎ましく思うわけだが、かといって野放しにするわけにも行かない。このような時期には、フィルタリングが手段として有効だと考えられる。

 いちいち立ち会って監視はしないが、遠くからでもなにやってるかだいたい感づいてるよ、というぐらいの立ち位置がいい。この時期に、親から情報リテラシー教育を施すというのは無理がある。相手がまるで聞く耳を持たないのだから、そこを無理矢理目の前に座らせて話を聞かせても、家庭内暴力事件に発展しては意味がない。それよりも反抗期の時期が終わるのを待って、ちゃんと話をしたほうがいい。どうせ1年か2年ぐらいのことである。

 反抗期をすぎれば、ものの道理が分かるようになる。子供も勉強の事ばかりではなく、社会や趣味のことにも興味を持ってくる。そのときに、情報リテラシー教育が最も有効になるだろう。そうしたあと、フィルタリングを続けるか、あるいは活動履歴が分かる程度のペアレンタルコントロールにするかを判断すればいい。

 問題は、情報リテラシー教育を施すにも、親にそのスキルがないケースだ。現在中学生や高校生のお子さんをお持ちの親というのは、だいたい30代半ばから40代後半ぐらいが中心だろうと思われる。このぐらいの年齢では、自分が青年期にPCを触っていたという人が少ない。今時ネットぐらいは使うだろうが、ぐるなびで忘年会の予約を入れたり楽天トラベルで温泉を探したりする程度では、情報リテラシーは教えられない。

 したがって今はまだ、親用のテキストが必要になってくる。だがこれは、時間が解決する問題である。今の20代から30代前半の人たちが親になってくれば、すでに情報リテラシーを身につけている親の比率が増えていく。親が教えられるケースは、加速度的に増えていくわけである。

 もちろんその時代になったらなったで、新しい問題が持ち上がることだろう。そういった新しい事件への解釈や対処法をMIAUのような団体が提案することで、均衡が保てるのではないかと思っている。もちろん我々だけで、すべての問題を抱え込むには無理がある。もっと手分けして問題に当たれるような団体が出てくることが望ましいし、そのことは既にMIAUの設立記者会見の席で、白田先生が予言している。

 意見表明やシンポジウム開催以外に、具体的な成果物を作成する段階になって、我々には人手が足りないということが本格的な問題になりつつある。教科書プロジェクトに対して、何かスキルを持っている方が協力してくれるのは、完成までの時間を大幅に短縮することになる。MIAUでは常時協力会員を募集している。

 ネットは、毎日変わり続けている。この変化のスピードこそが、ネットの存在意義でもある。この教科書も、その変化に対応しながら適宜アップデートし続けるものとなるだろう。およそ教科書に似つかわしくない教科書こそが、我々の目指す教科書なのである。

小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作は小寺氏と津田大介氏がさまざまな識者と対談した内容を編集した対話集「CONTENT'S FUTURE ポストYouTube時代のクリエイティビティ」(翔泳社) amazonで購入)。

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