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薄型テレビ、今夏のトレンド麻倉怜士のデジタル閻魔帳(2/4 ページ)

» 2008年06月11日 08時30分 公開
[渡邊宏,ITmedia]

 また、PZ800シリーズから導入された広色域化技術「カラーリマスター」は画期的なものです。通常テレビの色作りというものはエンジニアが持つイメージを再現するという手法で行われますが、カラーリマスターによって、ディレクターズ・インテンション(製作者の意図)をそのまま表現するという「高忠実度再生」という領域に入ってきました。

photo カラーリマスターの概要

 フルHDの次のキーファクターとして、色域の拡大に取り組んだ訳ですが、それはどうしても人為的な行為ですから「本当に正しいか」という疑念は残ります。カラーリマスターは素晴らしいのは、「ディレクターズ・インテンションを表現するため」という狙いをしっかりと持って色域を広げていることですね。

 この効果を理解するには、同社がプロジェクター製品に導入している、「ハリウッド画質」づくりが参考になります。これは製品の開発過程において、カラリストが持つイメージに近づけるよう絵づくりすることです。マスターテープを作る際、製作現場ではソニーのブラウン管モニターで調整することがほとんどです。ここで監督の意図に沿った色に調整するわけですが、実際にはそのマスターモニターで表現できる色域以上のイメージを持ち、それを巧みにハイビジョンの領域に圧縮して入れ込んでいるといいます。

 同様の発想をプラズマに投入したのがカラーリマスターです。デジタルシネマの色域3角形はそのままに、どのように色域を拡大するか(三角形の角度をどのように定めるか)にカラリストの目を使い、彼らの職業的な色の作り方のノウハウを元に、フィルムに一番近い色域を実現するといいます。実際には色によっては鮮やかに感じられることもありますし、くすんでいるように感じられることもあります。これは同社の技術者だけで決めたのではなく、監督やカラリストも含めた“輪”が成した色なのですね。

 映画「君に読む物語」の冒頭に、川が夕日の色に染まる場面があります。PZ800で見たその場面は従来にはない圧倒的な感動を与えてくれました。回想シーンで描かれる若いころの肌色が美しいのも素晴らしいですね。冒頭のシーンではピークが伸びていながらも、黒も沈んでいます。色を含めた表現力全体が向上していることを感じさせますね。

自動画質調整――21世紀のユーザーベネフィット

麻倉氏: テレビの画質調整機能はブラウン管の時代から存在します。ですが、メーカー側にも、購入したユーザーは積極的に使用しないという認識がありますし、実際、大半が出荷時の状態で利用されているという調査結果もあります。そこで、最近のモデルで搭載されてきたのが自動調整機能です。

 これは環境光や室内の明るさ、コンテンツ種類などの情報を総合的に判断し、ふさわしい映像を作り出します。パイオニアがKUROに「リビングモード」、東芝がREGZAに「おまかせドンピシャ高画質」といった名称で搭載しています。リアルタイム解析の精度は高くなっており、いずれも効果が見こめます。

 パイオニアと東芝を例に挙げましたが、パイオニアはコンテンツの種類までも分析して画質を調整します。東芝も基本的なやり方は変わりませんが、新製品は環境情報をどのように取得するかに努力の跡がみられます。話を聞くと、開発陣の研究室で作り込んだ映像が本社オフィスで見ると、どうしてもいまひとつに見えてしまったことがきっかけだったそうです。それは壁に映る照明の色温度が違うことが原因だったのですね。

photophoto 「おまかせドンピシャ高画質」(おまかせモード)はREGZAの2008年春夏モデルから導入された。「照明の色」「外光」の2つを選択するだけであとは自動的にテレビが調整してくれる

 調べてみると本社オフィスの照明が蛍光灯であることが原因であると分かり、そこで、コントラストをなるべく高く維持した状態で色温度とバックライトを調整すると、環境適応力を高めるられるのではと考えたそうです。実装してみると、映画でもテレビのワイドショーでも相当の効果を発揮することが分かりました。

 搭載したREGZAで「映画プロ」になった状態を確認すると、以前の製品ではバックライトが20程度までしか落ちませんでしたが、これが真っ暗の環境では15程度まで落ちます。バックライトの可変範囲も非常に広くなっているのですね。自分で画質を追い込む人にとっては「おせっかい」ともいえますが、従来はできなかった部分まで自動化されているので、万人がテレビの能力を楽しめるという意味では意義のあることといえます。

 他社はまだそこまでパイオニアや東芝のレベルまで追従していませんが、AVアンプの自動音場調整機能の例もあります。オリンピック商戦次第では普及が進む可能性があります。21世紀ならではのユーザーベネフィットが提案される時期に来たとも言えるでしょう。

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