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実は“買い時”のフロントプロジェクター(4)本田雅一のTV Style

» 2008年06月14日 15時23分 公開
[本田雅一,ITmedia]

 前回までに、透過型液晶パネルを用いたフルHDプロジェクターが、価格的にこなれて“買い時”を迎えていると紹介した。しかしテレビよりも趣味性がはるかに高いホームプロジェクターには、さらに高画質な製品がラインアップされている。ただし、価格は製品の価値なりに高くなる。

 そこで、最後に高級プロジェクターの現状について書いておこう。ホームプロジェクターに初めて興味を持った読者は高価だと感じるだろうが、その画質は方向性こそことなるものの、いずれも素晴らしい。

 高級機でお勧めは、ソニー「VPL-VW200」、日本ビクター「DLA-HD100」、マランツ「VP-15S1」の3つだ。もちろん、どれが良いのか? という質問もあるだろうが、この3機種は特徴が異なる。価格にも開きがあるが、このクラスの製品を選ぶならば、価格差よりも好みや特徴の違いで選ぶことを勧めたい。

photo ソニーの「VPL-VW200」の価格は136万5000円。独自のディスプレイデバイス「0.61型ハイフレームレート フルHD SXRD」を搭載。IBリダクションを追加した新しい「モーションフロー」と組み合わせ、動きの早いシーンで発生しやすいブレを低減する。映像エンジンは「ブラビアエンジンプロ」

 まずVPL-VW200だが、実は筆者自身が所有しているホームプロジェクターでもある。価格は3機種中もっとも高価だが、一方でもっとも弱点の少ない製品だ。

 本機の最大の特徴は、なんといってもキセノンランプを用いた、リニアリティの高い素直で上質な色から色へとつながるグラデーションと、無理なく伸びた高純度の赤色表現である。前モデルのVPL-VW100よりも確実にコントラストが上がっている。しかも高価な製品だけあって検品体制を下位モデルよりも入念なものとし、製品ごとのバラツキを抑えて設計値以上の高コントラストや色ムラの少なさを実現している。もちろん、その背景としては反射型液晶パネルを用いたプロジェクターを販売し続けてきたことによる、製造面でのノウハウ蓄積がある。

 デフォルトの発色は抑えめでモニターライク。決して濃い色が出ないわけではなく、色濃度を上げていくと彩度がサチることなく上がっていく。つまり、意図して映像制作者がデジタル化の際にリファレンスとしているマスターモニターに近い、素直な色再現に抑えているのである。また、黒を充分に沈ませつつ、階調を広く見せるトーンカーブとなっており、顔の影の部分が黒ずんでしまうことがない。ソフトで丁寧な表現と、適度な高コントラストが同居している。

 本体価格と交換ランプが高いということも考え合わせてもなお、個人的には魅力ある選択肢だと思う。“それでも高いよ”という声も聞こえてくるが、この製品は「惚れて」買うタイプのプロジェクターだ。

photo 日本ビクターの「DLA-HD100」は84万円。0.7インチD-ILAデバイスとWire-Grid光学エンジンの採用により、アイリス(絞り機構)を使わないネイティブコントラストで3万:1を実現した

 一方、ビクターのHD100は見て驚き、さらに理詰めで考えて選ぶ製品だろう。同社は「DLA-HD1」という、もう少し低価格なモデルもラインアップしている。主な違いはコントラスト値(HD100は3万:1だが、HD1は2万:1)なのだが、実際に両者を比較するとコントラスト以上に絵作りの差を感じる。

 数値を見ればHD100の方が当然、高コントラストでメリハリ調の絵作りなのだろうと想像する人も多いだろうが実際には逆だ。急峻に彩度が伸びたり、白ピークが強調されるなどの演出感がなく、良い意味でHD1よりも自然な絵作りが行われている。また、HD1に残るシャドウ部分の色付きが、HD100ではほとんど気にならないレベルまで落とし込まれているため、とくに暗いシーンでの描写が丁寧になる。

 HD100はHD1と筐体が共通で、やや品質感に欠けるところが唯一の弱点だが、しかし両製品の強烈に沈む黒に魅せられたなら、是非とも上位モデルのHD100を選んでほしい。長く使っていると、どんな製品でも必ず出てくる不満がHD100の方が遙かに少ない。1年後に発売されたこともあって、完成度の違いは明らかだ。

photo マランツの「VP-15S1」は98万円。米TIの1080p対応DMDチップを搭載。ドライバーもTIの新開発「DDP3021」を2個並列動作させ、ミラー制御にくわえてガンマ処理の12bit化を実現した

 最後にVP-15S1。反射型液晶パネル採用プロジェクターが低価格化したことで、昨今はあまり話題に上らなくなってきた単板DLP方式採用のフルHDプロジェクターだが、台湾ブランドの低価格なDLPとは、ひと味もふた味も違う丁寧な作りが魅力の製品。

 “丁寧な作り”とは、単に筐体やレンズなど各部に気をつかっているというだけではなく、映画を丁寧に描写しようというメーカー側の作り込みの意図が感じられる、という意味も含めて書いている。

 単板DLPには明るく淡いパステル調の色が出せない、色が分離して見えるカラーブレーキング現象があるといった弱点もあるが、ANSIコントラストの高さという絶対的な利点は今なお健在だ。DLPらしい深いディテールの描写が好きというなら、選択肢として魅力的な存在。展示されている場所が少ないが、きちんと作り込まれた製品が欲しいDLPファンには、是非とも見てほしい製品である。

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