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マランツのセパレート式AVアンプ「AV8003/MM8003」でBD「再会の街で」を聴く山本浩司の「アレを観るならぜひコレで!」Vol.17(1/2 ページ)

» 2008年06月25日 15時50分 公開
[山本浩司,ITmedia]

 Blu-ray Discの映画ソフトに、圧縮・解凍時に情報欠落の生じないドルビーTrue HDやDTS-HDマスターオーディオ(MA)などのHDオーディオ・マルチチャンネル音声が収録されるのが当たり前になってきた。WOWOWやBS hiなどで、良質なハイビジョン番組がどんどん空から降ってくるわが国においては、BD ROMの訴求ポイントは、まずその高音質にありとぼくは繰り返し述べているが、DVDとは隔絶した高音質でハイビジョン・ソフトを楽しみたいと考える欲張りなAVファンにとって、やっとソース環境が整ってきたようだ。

 だからこそ、HDオーディオの魅力を納得させ、その音のよさを実感させてくれるAVアンプが必要だ。その点、市場環境はたいへん好ましい状況に整備されつつある。

 10万円以下の製品では、本連載で採り上げたオンキョー「TX-SA606X」(8万4000円)やヤマハ「DSP-AX763」(8万4000円)といった、価格対満足度の高いAVアンプが登場、市場で大きな人気を集めているし、一方のハイエンド・ゾーンでは、100万円を超えるデノン「AVP-A1HD/POA-A1HD」(147万円)という超弩級のセパレート型を頂点に、50〜100万円クラスには、パイオニア「SC-LX90」(88万円)、ヤマハ「DSP-Z11」(69万3000円)、デノン「AVC-A1HD」(59万8500円)といった一体型のフラッグシップ・モデルがあり、それぞれが独自の魅力をアピールし、覇を競っている状況だ。

 こんなふうにバラエティ豊かなラインアップがそろうことで、ユーザーは自分の予算と好みにあった製品選びができるわけだが、この夏、マランツがたいへん興味深いセパレート型「AV8003/MM8003」を携えて参戦、ますますハイエンド・ゾーンは混戦模様、面白くなってきた印象だ。

 ところでマランツというと、ピュアオーディオの一流ブランドというイメージをお持ちの方が多いのではないかと思う。確かに、プリアンプの「SC-7S2」(73万5000円)やモノラルパワーアンプの「MA-9S2」(147万円・ペア)など、深く澄んだ湖の底をのぞき込んだような感覚を抱かせる、超絶的な高S/Nサウンドを聴かせるハイエンド・モデルを擁し、2チャンネル再生に熱心なオーディオファイルから絶大な支持を集めているのがマランツというブランドである。個人的には、同社が輸入販売しているB&W(英国)の高級スピーカーを鳴らすアンプとして、このペアは唯一無二の魅力を持っていると思う。

 一方、AVアンプはというと、昨年の「SR8002」(19万8000円)など、強力な電源部をおごった高音質モデルを発売してはいるが、他社製品に比べて、いまひとつ訴求力が弱かったことは否めない。そこで、HDオーディオが本格的にテイクオフしたこの2008年夏、マランツはセパレート構造で音質を徹底的に磨き上げたAVアンプをリリース、勝負を仕掛けてきたわけである。

photo AV8003(31万5000円)

 では、その内容を吟味してみよう。AV8003(31万5000円)は、Ver.1.3aのHDMI入力を4系統備え、HDオーディオのフルデコードに対応したAVコントロールアンプ。スピーカーを駆動するパワーアンプを積んでいないわけだが、内部をのぞくと、ちょっとした高級プリメインアンプに搭載されているものと同じくらいの大型トロイダルトランスが載せられているのが見える。

 “クォリティの追求はまず電源部から”というマランツの考え方が、ここからも垣間見えるが、実際デジタルビデオ系を抱え込むAVアンプにとって、その電源変動はたいへん大きく、厳重に磁気シールドを施した大型トランスをおごることで、まずその根本を抑えようという発想なのだろう。HDMI入力信号に重畳されるジッター(時間軸の揺らぎ)を抑えるPLL回路にも専用のローカルレギュレーターを充てているのも重要なポイント。これまでさまざまなAVアンプを試聴してきて、個人的にはこのレギュレーターの設計が音質上、たいへん重要だと実感しているのである。

 HDオーディオのデコードなど主な信号処理をつかさどるメインDSPは、フローティングポイント・タイプのテキサス・インスツルメンツ製。D/Aコンバーターは、192k・/24ビット対応のシーラスロジック製である。

 また、本機の注目ポイントとして挙げておきたいのは、ネットワーク対応機能。本機は、DLNA対応機器に保存されている音楽・動画ファイル等の再生を可能にした世界初のAVコントロールアンプなのである。ルータや無線LANと接続することで、複数のネットワーク機器内にあるコンテンツをシェアできるというこの先進性も、今後の使い勝手を考えると見逃せないところだろう。

photo 「MM8003」

 170ワット(6オーム時)の同一パワーアンプを8チャンネル分収めたコンパクトな製品が、MM8003(28万円)。全チャンネル分のヒートシンクを筒型の一体成形とし、そこにパワートランジスタをシンメトリカルに配置した効率的なコンストラクションが採られている。回路はマランツのお家芸ともいえる電流帰還型である。

 電流帰還型アンプは、ハイスピードで広帯域に渡って情報量の多い優れた回路方式といわれているが、コスト増になるためAVアンプで採用されることはきわめて少ない。また、本機に採用された出力素子は、先述した同社のハイエンド・モノラル・パワーアンプ「MA-9S2」で使われているものと同一の大型パワートランジスタである。

 実際に、このペアでさまざまなHDオーディオ音声収録BD-ROMを聴いてみたが、さすがにその音質は素晴らしい。同価格帯の一体型AVアンプよりも1クラス上と思える情報量豊かな音を聴かせることが確認できた。映画、音楽ソフトともに、ディティールをとことん浮かび上がらせようという積極果敢な描写力に感心した。

 なかでも、その表現力が素晴らしいと思ったのが、07年のアメリカ映画のBD ROM「再会の街で」(原題 reign over me)である。

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