昨年発売されたすべてのAVアンプの中で、10万円を切る価格設定でHDMI Ver.1.3入力を備え、HDオーディオのフルデコードが可能だったのは、オンキヨーの「TX-SA605」(8万4000円)だけだった。
念のため申し添えておくが、HDオーディオとは、ブルーレイディスクのパッケージソフトに収録されるようになったリニアPCMマルチチャンネルやドルビーTrue HD、DTS HD MA(マスターオーディオ)といった高音質サラウンド音声フォーマットのことを指す。後者の2つの音声は、圧縮解凍時に信号欠落がなく、完全に元のデータに復元できるため“ロスレス”(Lossless:可逆型音声符号化)オーディオと呼ばれたりする。そのビットストリーム伝送は、Ver.1.3に対応したHDMIのみ可能である。
予想通り大ヒットを記録したTX-SA605の後継機種として、オンキヨーからこの4月には「TX-SA606X」が登場、ほぼ同時にヤマハから8万4000円の同じプライスタグが付けられた「DSP-AX763」が発売された。コストの限界があるなかで、練達のエンジニアが音の狙いを定め、知恵とノウハウを駆使してまとめあげた両モデルは、じつに興味深い、小気味よいサウンドを聞かせてくれたのである。
どちらも音の処理を磨き上げるというよりも、音の勢い、元気のよさを追求した音質チューニングが施されていたが、それでもやはり音の個性は異なり、オンキヨーはバタくさささえ感じさせる音像の色濃いリアリティに、ヤマハは日本的な節度を守りながら時折垣間見る力感の豊かさに、独自の魅力を感じさせたのだった。
そしてこの夏、“AVアンプの巨人”デノンから、TX-SA606X、DSP-AX763と同じ価格でHDオーディオ・フルデコードを果たした「AVC-1909」が発売された。実際に仕上がったばかりの本機に触れてみたが、オンキヨー、ヤマハ機と異なる好ましい音の個性を聞きとることができ、実に頼もしい思いがした。
デノンは昨年7モデルものAVアンプをラインアップし、大攻勢をかけてほかのメーカーを震え上がらせたが、HDMI Ver1.3入力を備えたのは、16万8000円の「AVC-2808」から上の4モデル。この夏、AVC-2808のちょうど半額のAVC-1909でHDオーディオのフルデコードに対応することになったわけである。日本メーカーのこういう律義なコストダウン努力には、頭が下がる思いがする。実際、8万4000円でHDオーディオデコード可能なこのレベルの音質を維持した製品を作れる海外メーカーは、皆無だろう。
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