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ステレオの復活、HDオーディオの充実麻倉怜士のデジタル閻魔帳(2/3 ページ)

» 2008年08月08日 08時30分 公開
[渡邊宏,ITmedia]

――では、なぜここに来てラックスマンやエソテリック、アキュフェーズといった本格単体オーディオ製品が勢いを取り戻しているのでしょう。ヒットの要因を個々に説明を頂けないでしょうか。

麻倉氏: ラックスマン「NeoClassico」のヒットは、もちろん真空管アンプによる音質が良いことに加え、積極的なマーケティングの成果ですね。これまで同社のマーケティングといえば専門誌への広告展開が主でした。マニアは愛読するものの、ライトな層が購買層に存在しない専門誌のみのアプローチは、結果的ではありますが、オーディオ不況という状況を自ら引き起こしたとも言えます。

photo ラックスマンの「NeoClassico」シリーズ。真空管プリメインアンプ「SQ-N100」(右)とCDプレーヤー「D-N100」(左)

 しかし、興味を持ってもらう対象を広げるためには、製品価格もある程度は低く抑える必要があります。価格面でのハードルを越え、本格的な音楽体験へ興味のある層へよりリッチなリスニングをしてもらうために企画されたのが「NeoClassico」なのです。結果、大手新聞や中年向け雑誌といった一般的なメディアに、専門メーカーが入門用の真空管アンプシステムを発売したということ自体をニュースとして取りあげられる機会が増えたといいます。そうした媒体の読者層と真空管アンプを好む年齢層がマッチしていたのです。

 ラックスマンの担当者は、「音にこだわりを持つ層、若い頃にオーディオを趣味とした層が、潜在的なユーザーからアクティブなユーザーに変化したのがヒットの要因」と話していました。私は「音が良かった」のが一番のヒット要因だと分析します。NeoClasscioは同社製品のなかでは安価な部類に入りますが、同社ならではの音楽的な音作りのエッセンスはきちんと感じられます。

 「真空管の楽しみを知るかつてのユーザーの復活とはいえ、高級な――高価と言い換えてもいい――製品は手軽に買えません。それに、久しぶりの購入だからこそと慎重になる側面もあります」 担当者はそうも言っていましたが、オーディオ回帰層、とも評すべき層がある程度の数になってきたのは確かですね。

 アキュフェーズからは、同社ならでは品質や企業姿勢がユーザーへ伝わり、ひいては製品のヒットに繋がったという話を聞くことができました。なかでも、「アキュフェーズを選択してくれる方はハイブリッドを好まない」という言葉が印象的でした。同社はAVアンプやSACD/CDのユニバーサルプレーヤーも用意しているのですが、シンプルな原点回帰とも言える製品が特にヒットしているということです。なかでもCD専用プレーヤー「DP-500」は品薄状態となるほどの人気を博していますね。

photo アキュフェーズの「DP-500」

 実は同社はこれまでソニーのメカを中心にアセンブルして製品を作っていましたが、ソニーがメカニズム供給を停止してからは自社で開発生産を行っています。CDにこだわるというユーザーが多いという需要を受け止め、CD専用かつ、2ch専用のトランスポート部分までも開発し、音質を高めたのがDP-500のヒット要因です。物づくりへのコダワリがその根幹にあるといえるでしょう。

 団塊世代が退職後の生活を豊かに過ごすため、「最後の買い換え」として高級機を選択する傾向は存在します。エソテリックの製品はそうした基準からも選ばれています。ですが、40代以下の層からも支持を得ていることも見逃せません。SACDプレーヤー「X-05」はそうした比較的若い層からの問い合わせも多いそうです。

 海外スピーカーメーカーの積極的な製品展開も注目したいところです。KEFやELACは近年、新しい価値観に基づくワイドレンジのスピーカー製品を次々とリリースし、いずれもヒットしています。アルミの振動板を上手に使いこなして豊かなサウンドを楽しませてくれるELACは新しい「240シリーズ」はウーファーのコーン形状を変更することで音のレンジを拡大し、現在的なヴィヴットで、積極的な音を奏でます。このシリーズは2007年から販売されていますが、非常に人気を博しており、これまでのトータルセールスを覆すほどだと言います。

 ディナウディオも注目ですね。ヨーロッパ系の優れたスピーカーメーカーが積極的に国内進出し、広い層へ製品を展開しているひとつです。一般の家電量販店でもディナウディオはかなり売れているそうです。マニア向けだけではない製品作りやマーケティングが功を奏しているのですね。

 国内メーカーではデノンの頑張りが目を引きます。スピーカーの「CXシリーズ」が評判で、それとのマッチングに適したアンプやプレーヤーも用意されています。10万〜20万円という価格帯でしっかりとした音を出すよい製品をリリースしています。じっくりとよい音のする製品を作ってきたメーカーとして、同社は評価されているように思います。ブランドのロイヤリティが重視される世界だけに、良いものを作り続けてきたという、まじめな姿勢は高く評価できますね。

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