ITmedia NEWS >

ギックリ腰無限ループから脱却する5ステップ小寺信良の現象試考(3/3 ページ)

» 2008年09月16日 11時00分 公開
[小寺信良,ITmedia]
前のページへ 1|2|3       

頑張らなくていい

 筆者が今習慣としているのは、約6キロ強のジョギングである。毎日6キロも走るのは大変だと思われるかもしれないが、そのきっかけは実にしょーもないことであった。

 ある日思い立って、以前車で行ったことがあるラーメン屋に歩いて行ったらどれぐらいかかるんだろう、とやってみたのが、最初のきっかけである。その時は片道1時間ぐらいかかるんじゃないかと思ったものだが、実際に歩いてみると20分ぐらいであった。遠い遠いと思っていても、案外歩けるものなのだ。普段長距離であれば、車や自転車を利用するので、徒歩の距離感がよく分からなくなっているだけなのである。

 往復40分。ラーメンなどは10分もあれば食べられるので、1時間の昼食時間内でやれる運動だ。歩いている間にいろいろ考え事をしたり、忘れていたことを思い出したりと、目の前のことでいっぱいいっぱいになるのではなく、自分自身を振り返る時間ができたのが収穫であった。

 それを機会に、時間を見つけて1日1回、必ず近所を散歩することにした。当時は荒川からそう遠くないところに住んでいたので、その河川敷を歩いて往復小一時間である。途中小さな支流などがあって、いったん小さな橋を渡ると、次の橋までは戻って来られない。途中で面倒くさくなっても、川をザブザブ渡って帰るわけにも行かない。そこで距離が固定されるわけである。

 これが逆によかった。もう先へ進むか、同じぐらいの距離を引き返すしかないのだから、前に進んだ方がマシである。こうして1週間ほど散歩を続けたのだが、やっぱり1時間という時間がもったいないような気がした。そして考えた結果、「走ったらもっと早く帰れるのではないか」ということに気づいてしまったのである。オレって頭いいですな。

 そこで、同じコースを走ることにした。といっても、いきなり6〜7キロの道を走りきれるわけがない。根性出して無理に走りつづけようと思わないで、つらくなったらすぐ徒歩に変えた。そもそもは徒歩だったのである。そういうペースで3週間ほど続けていたら、いつの間にかあまり歩かなくても済むようになっていた。

 もっともこれは、体調次第である。昨日夜更かししたとか、雨で2〜3日走れなかったといった場合には、キツくなった時点で徒歩に切り替える。基本的に無理するのが嫌いなのである。

 こうしてジョギングを続けているうちに、すっかりギックリ腰の恐怖から開放された。実は一度やっちゃったかな? という嫌な痛みを感じたことがあったのだが、構わずジョギングしたらいつの間にか治っていた。体はやせたように見えるが、体重はあまり変わっていない。脂肪だった部分が、そのまま筋肉に移行した感じである。

 おそらく多くの人は、やせなければならない宿命を背負っていて、どうすれば一番楽にやせられるかを模索しているのだろう。だがやせるということ自体を目的としなくても、いいように思う。だって食事制限などして、好きなものが食べられないつらさを味わうぐらいなら、歩き回ったり走り回ったりするほうが幸せだろうと思うのだ。

 気の長い話をすれば、直立歩行が完成した「原人」が登場したのが今から180万年前だという。もしかするとそのころから、直立歩行するなりの腰痛があったのかもしれない。しかし直立する原人が滅びることなく現代まで続いたのは、歩いて歩いて世代を重ねるごとに遺伝子を改良しながら、より直立に向いた骨格や筋肉構造へ変化していったからだと思う。

 しかし、一日中一歩も外に出ず仕事ができるようになったことなどつい最近のことで、まだ1世代もまたいでいないのである。生きている生体の中では遺伝子構造は変わらないので、歩かなくても体がおかしくならないように人類が変化するのは、まだ何世紀もかかることだろう。

 電車もバスも、自転車もない時代のことを思って不自由を楽しんでみるというのも、結構面白いものである。それでギックリ腰の恐怖から逃れられるわけだから、実はいいことだらけと言えるのではないだろうか。

小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作は小寺氏と津田大介氏がさまざまな識者と対談した内容を編集した対話集「CONTENT'S FUTURE ポストYouTube時代のクリエイティビティ」(翔泳社) amazonで購入)。

前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.