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ソニーの「大爆発」麻倉怜士のデジタル閻魔帳(4/4 ページ)

» 2008年09月19日 12時49分 公開
[渡邊宏,ITmedia]
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 そして「2011年画質」をうたう今回の新製品ですが、短期的にはパナソニック製品を上回る画質を実現し、長期的には「これがソニーのBlu-ray Disc」というイメージを確立すべく、「映像をどのように作るべきか」という課題を背負って作られました。

photo 高画質化回路「CREAS」(クリアス)

 「CREAS」(クリアス)と命名された高画質化回路が搭載されていますが、これは多分にパナソニックの「UniPhier」(ユニフィエ)への対抗意識が込められています。UniPhier自体がソニーの「Cell」対抗というニュアンスを持つのですが、それはさておき、画質チップというLSIについては専門メーカーが活躍する分野であったのが、これを自社で作り出したのは高く評価できます。これはパナソニックにも言えることです。

 映像のハイビジョン化が進み解像感は増していますが、階調で言えばハイビジョン映像の信号は多くがまだ8ビット(256階調)です。ですが、その信号を映し出すテレビのパネルは10ビット(1024階調)のものが増えています。その落差を埋めるべく、CREASは信号をいったん14ビット(1万6384階調)に相当するまでビット拡張を行い、その後にパネルにあわせたビット数(階調数)で出力します。

 これを同社は「スーパービットマッピング」と表現しますが、これは同社製高音質CDプレーヤーにも実装されていた手法です。これによって階調表現が向上するとともに、バンディングと呼ばれるシマ模様が減ります。

 わたしが驚いたのは新製品開発に際し、かつてのβの高画質を作り出した“マエストロ”技術者を招いたことです。これは例えるならば、弱小チームに名監督が来たようなものです。クリアスは高画質で知られた同社β製品で印象的だった、信号とレスポンスを調整して画質を作り出す「ノンリニアエンファシス」という手法に似たメソッドを採用しているとも言えますね。

 実はMPEG-4 AVC/H.264でどれだけの映像が作り出せるかの限界を知るため、ソニーは自社でテスト映像の撮影まで行っています。気が付いた人は少なかったようですが、1月のInternational CESでBDA(Blu-ray Disc Association)ブースのソニーコーナーでその映像が既に流されていたのです。これまで、BD製品の高画質化は「ストリームで来ている映像を美しく映し出す」というところを目標としていましたが、徹底した画質追求を行うことで、「録画してから再生する方が画質が良い」という状況をつくるために、ベーシックに立ち返って研究していたのです。

 搭載されるのは「Xシリーズ」のみですが、「DRC-MFv3」によるノイズリダクションやI/P変換の性能も向上しています。これもまた「オンエアでみるより録画してみるほうがきれい」という状況に付与しています。つまりテレビの内蔵処理回路より高級ということてせす。デジタルの映像も、再生系の改善によってまだまだ画質が向上する可能性があることを発見したのは、新製品の特徴でしょう。

 ただひとつ苦言を呈したいのは、カラ付きBDメディアへの対応をやめたことです。これはBD初号機である「BDZ-S77」ユーザーの切り捨てを意味します。安くないプライシングの行われたBDZ-S77を購入し、BDの立ち上げを支えたユーザーへのフォローを打ち切ってしまうのは初期ユーザーへの裏切りです。もしソニーが社会的責任を自覚するメーカーなら次のモデルでは復活すべきでしょう。

麻倉怜士(あさくられいじ)氏 略歴

 1950年生まれ。1973年横浜市立大学卒業。 日本経済新聞社、プレジデント社(雑誌「プレジデント」副編集長、雑誌「ノートブックパソコン研究」編集長)を経て、1991年にデジタルメディア評論家として独立。自宅の専用シアタールームに150インチの巨大スクリーンを据え、ソニー「QUALIA 004」やBARCOの3管式「CineMAX」といった数百万円クラスの最高級プロジェクターとソニーと松下電器のBlu-ray Discレコーダーで、日々最新AV機器の映像チェックを行っている、まさに“映像の鬼”。オーディオ機器もフィリップスLHH2000、LINNのCD12、JBLのProject K2/S9500など、世界最高の銘機を愛用している“音質の鬼”でもある。音楽理論も専門分野。
 現在は評論のほかに、映像・ディスプレイ関係者がホットな情報を交わす「日本画質学会」で副会長という大役を任され、さらに津田塾大学の講師(音楽史、音楽理論)まで務めるという“3足のワラジ”生活の中、精力的に活動している。

著作


「絶対ハイビジョン主義」(アスキー新書、2008年)――身近になったハイビジョンの世界を堪能しつくすためのバイブル
「やっぱり楽しいオーディオ生活」(アスキー新書、2007年)――「音楽」をさらに感動的に楽しむための、デジタル時代のオーディオ使いこなし術指南書
「松下電器のBlu-rayDisc大戦略」(日経BP社、2006年)──Blu-ray陣営のなかで本家ソニーを上回る製品開発力を見せた松下の製品開発ヒストリーに焦点を当てる
「久夛良木健のプレステ革命」(ワック出版、2003年)──ゲームソフトの将来とデジタルAVの将来像を描く
「ソニーの革命児たち」(IDGジャパン、1998年 アメリカ版、韓国、ポーランド、中国版も)──プレイステーションの開発物語
「ソニーの野望」(IDGジャパン、2000年 韓国版も)──ソニーのネットワーク戦略
「DVD──12センチギガメディアの野望」(オーム社、1996年)──DVDのメディア的、技術的分析
「DVD-RAM革命」(オーム社、1999年)──記録型DVDの未来を述べた
「DVD-RWのすべて」(オーム社、2000年)──互換性重視の記録型DVDの展望
「ハイビジョンプラズマALISの完全研究」(オーム社、2003年)──プラズマ・テレビの開発物語
「DLPのすべて」(ニューメディア社、1999年)──新しいディスプレイデバイスの研究
「眼のつけどころの研究」(ごま書房、1994年)──シャープの鋭い商品開発のドキュメント


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