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エプソン「EH-TW4000」で観る「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」の光と闇山本浩司の「アレを観るならぜひコレで!」Vol.27(2/2 ページ)

» 2008年11月12日 18時39分 公開
[山本浩司,ITmedia]
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 エプソンのプロジェクターには画質調整項目に「肌の色調整」という項目があり、肌色近辺の明るさだけを抽出して色相をコントロールできる。この効果もなかなかで、自分のイメージ通りのスキントーンが得られない場合は、まずこの項目を調整してみるといい。

 また、今回のEH-TW4000の液晶ドライバーが、12ビット(4096階調)駆動タイプとなったことも特筆すべきだろう。じつはこのパネル・ドライバーの進化が、「ディープ・ブラック・テクノロジー」の精度向上とともに本機の画質を語るうえでの重要なキーポイントとなっているのである。10ビット(1024階調)駆動だったEH-TW2000と見比べると、明らかに階調表現により深みが加わっているのが分かる。例えば女優さんのバストアップ・ショットなどで、鼻筋からほお、あごのシャドウにかけての陰影の表現が、TW4000はじつにきめ細かいのだ。これは、オートアイリスをオフにし、トーンカーブを固定してすべての画像をフル階調で描出する「シアターブラック」モードのメリットともいえるかもしれない。

 それから、本機の画像処理エンジンにその画質のよさで定評のあるシリコンオプティクスの「HQV Reon VX」が載せられたことも注目ポイント。BDプレーヤーの出力設定をインタレースの「1080/60i」にして、HDカメラ収録のオペラBD ROM「こうもり」を観たが、i/p変換を本機の「HQV Reon VX」に任せることで、輪郭にまとわりつくノイズがすっきり抑えられるとともに、輪郭が滑らかにつながれ、小信号がよりくっきりと再現されるようになったのが分かる。プリマドンナのパメラ・アームストロングが身につけている宝石のきらめきが、BDプレーヤーを「1080/60p」設定にして観るよりも数段美しい。

 そんなわけで、昨年のEH-TW2000から大きく完成度を上げた本機の画質のよさに見ほれてさまざまなBDソフトを観たが、なかでもたいへん興味深かったのが、ポール・トーマス・アンダーソン監督の最新作「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」である。

光と影を巧みに操る映像感覚

 20世紀初頭にカリフォルニアで石油採掘を始め、その執拗さで事業を成功させ、人も宗教も信じず金に執着し続ける狂気の男、ダニエル・プレインビュー。そんな“極端なヒト”をエネルギッシュに演じたダニエル・デイ=ルイスが今年のアカデミー賞で主演男優賞を獲った作品が本作「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」である。

photo 「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」(BD)は、ウォルト・ディズニー・スタジオ・ホーム・エンターテイメントから販売中。価格は4935円。(C) Buena Vista Home Entertainment, Inc. and Paramount Vantage,A Division of Paramount pictures Corporation

 資本主義とキリスト教の欺瞞を描いたと思えるこの作品、石油会社を持ち、南部の保守的なキリスト教徒を支持母体とする米国ブッシュ大統領(まもなくオバマと交替するわけだが)に対する痛烈な批判がその奥底に見えて個人的に興味深く思ったが、それよりも何よりも本作の素晴らしさは、愚かな人間の寓話(ぐうわ)を神話のように描いた映像と音楽の面白さにあると思った。

 撮影監督のロバート・エルスウィットは本作でアカデミー撮影賞を獲得したが、光と影を巧みに操り、地中から噴出する石油を、暴力によって流される血のメタファーとして描いたその映像感覚のさえに驚かないわけにはいかない。また、新感覚のロック・バンド、レディオヘッドのギタリストであるジョニー・グリーンウッドの書いた不協和音を駆使したオリジナル・スコアもじつに新鮮で、1960年代の武満徹の仕事を想起させる素晴らしい映画音楽に仕上がっている。男ばかりが出てくる汗くさい作品なのだが、なんだか久々に「純文学」っぽい映画を観た気分。

 さて、BDプレーヤーから1080/24p(24コマ/秒)の映像を本機EH-TW4000にHDMI入力、「4-4フィルム」モード(24pの画像を4等倍するモード。96Hz駆動)に設定し、色温度6500ケルビンの「シアターブラック1」で観る本作は、キレとコクのあるフィルムルックでじつに味わい深い。とくに12ビット駆動となったEH-TW4000の卓越した階調表現力が、本作をことのほか格調高く描き出しているのが分かる。6500ケルビンで観るこの映画のホワイトバランスも良好で、採掘現場の薄闇から北カリフォルニアの荒涼とした午後の雰囲気まで、安定したトーンで描写する。

 この秋、3LCDプロジェクターは大豊作のようである。なるべく多くの方にこの製品の完成度の高さを体験していただきたいと思う。

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