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全国民BD化への課題麻倉怜士のデジタル閻魔帳(2/3 ページ)

» 2008年11月19日 08時30分 公開
[渡邊宏,ITmedia]

訴えるべくはBDの素晴らしさ

麻倉氏: BDへの移行を促進する際に欠かせないのは、BDソフトがいかに素晴らしいものであるかを周知させることです。DVDは主にテレビ単体で再生されてきましたが、BDはそれだけでは物足りません。BD関係各社は、体験の質、感動度といったものがDVDとケタ違いであること、つまりは画質・音質・コンテンツのいずれも素晴らしいものであることをアピールしていくことが求められます。加えて、プレーヤーやAVアンプといった再生環境が従来のままでよいのかということまで含めて考え、機器のコラボレーションを提案することが必要になるでしょう。

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 タイトルに関してはここにきて非常に良質なものが増えています。「How The West Was Won」(西部開拓史)は1962年の公開時、シネラマで公開された作品ですが、BD版ではシネラマスクリーンを湾曲させて収録したバージョンとシネマスコープにトリミングしたバージョンの2つのディスクがセットになっています。3枚のスクリーンを横につなげた上映方式であるシネラマは、驚異の臨場感体験として映画史にさんぜんと輝くシステムですが、その雰囲気を家庭で体験できるほか、60年代の作品ながら非常に画質が高いのもBD版の特徴です。

 収録されている映像ものっぺりとした起伏のない映像ではなく、フィルム的な深み、美しさがあります。画質と臨場感とは切っても切れない関係にありますから、本作品から得られる臨場感は、DVDで味わうことはできなかったでしょう。

 20世紀フォックスがBD化を進めている「007」にも感動しました。ショーン・コネリー主演「ロシアより愛を込めて」の、私の好きなイスタンブールでの看板を撃つシーンでは、暗闇にツヤがあり、銃からはその質感、重量感までも伝わってきます。また、ボンド=ショーン・コネリーの精悍さ、セクシーさから路上看板の過剰なまでの光彩感まで、映像が良くなれば、よく知った作品も何度でも再度楽しめるという事実を改めて感じさせてくれる1本です。

 ビートルズの名曲でつづる「アクロス・ザ・ユニバース」はクリア感や原色の美しさが目を引きますし、オパスアルテの「カルメン」や「イル・トロヴァトーレ」、ユニバーサルの「フィガロの結婚」のオペラの名演・名演奏がBDというパッケージに、リニアPCMで収録されているのも見逃せません。

 また、NHKのベルリン・フィル「悲愴」やバンダイビジュアルの「AKIRA」など、作品性・エンターテイメント性に優れた作品も多数登場しています。業界はその絶大なる魅力をユーザーに伝えなければいけません。見ることで人生がより楽しくなる、心ふるえるような感動を味わえる、そうした素晴らしい体験を、DVDしか見たことがない、BD-ROMは見たことがない、プレーヤーを持っていない人へいかに伝えるかがポイントになります。

photo ソニー「BDP-S350」

 BDへ潜在的な興味を持っているという話は多く聞きます。その興味を顕在化させるための有効な手段のひとつが、プレーヤーを安価に提供することです。これまでは事実上、安価なBDプレーヤーはイコールPS3でしたが、ソニーが年末に実売4万円台のBDプレーヤー「BDP-S350」を投入します。この意義は決して小さくありません。

 確かにPS2はDVDとの親和性が高く、PS3とBDもまたしかりなのですが、コンテンツの本質は異なるものです。そもそも、利用者から積極的に働きかけるゲーム機と、芸術作品を受動的に楽しむプレーヤーでは求められる資質が異なるのです。作品鑑賞をする場所へゲーム機を設置することへ違和感を覚えるひともいるでしょう。だから純粋なBDプレーヤーが望まれていたのです。

 シャープはBD内蔵の液晶テレビ「“AQUOS”DXシリーズ」を投入してきました。BDレコーダーを液晶テレビへ内蔵することで、手軽にBDタイトルを楽しめますし、もちろんBDへの録画もできます。これまでテレビとは放送を受像するだけの装置でしたが、この製品は、いつでも録画した番組をプレイバックできる21世紀型のテレビです。

 しかも、記録メディアにHDDではなくBDを採用することで、タイムシフト視聴と同時にパッケージ化を行うこともできるのです。HDD内蔵テレビと同じ感覚で、お気に入り番組を次々と録画します。見て残す必要がないと判断したらそのまま削除。一杯になるまで使ったら、そのディスクはコレクションディスクとして保管して、新しいディスクに入れ替えればいいのです。つまり使い込めば使い込むほど自動的に、かけがえのない「マイディスク」ができあがるという寸法です。これは素晴らしいアイデアです。

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