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「一億総クリエイター」という勘違いに至る道のり小寺信良の現象試考(2/3 ページ)

» 2008年12月01日 10時00分 公開
[小寺信良,ITmedia]

受け手の変質過程

  • Content Play概念の発祥

 作り手が供給し、受け手は一方的に受け取るだけという時代から、受け手に参加を求める娯楽が台頭したのは、1978年に登場した「スペースインベーダー」の頃だろう。この時代を「Playの時代」と名付けたい。

 それ以前にも、業務用テレビゲームは存在した。だがそれらは、あくまでも時間つぶしであったり手慰みであったりというだけで、それそのものが目的化してはいない。

 Play時代の特徴は、子供ばかりでなく大人も、Playすることを目的として行動したという点での転換があったことである。そして任天堂がファミリーコンピュータを発売したのが1983年。この頃に娯楽とは受動的享受から積極的享受へと転換し、上手くなればより楽しむことができるという、享受者のスキルによって楽しみが差別化するという現象が発生することとなった。

  • Play本末転倒時代の到来

 インターネットの普及と光ディスク記録メディアの台頭は、90年代後半からほぼ時期を同じくしておこった。インターネットはデジタルデータを伝達するわけだが、それはInfomationという意味での情報だけでなく、コンテンツそのものをデジタル化することで、伝送可能となった。

 これによって起こったのが、コンテンツの収集である。映像、音楽に限らず、ソフトウェアですら収集の対象となった。内容をまったく鑑賞せず、ひたすら全話、全曲入手したり、特定ソフトウェアの全バージョンを収集する。これはコンテンツの社会的価値ではなく、単にネットでは珍しいという価値が、デジタルデータに付加されることとなる。

 むろんソフトウェアの違法コピー問題自体はそれ以前から存在したが、これらのネット取引行為が引き金となり、ネット上での著作権侵害問題が社会問題化したと言えるだろう。しかしこの本末転倒現象は、現在はかなり縮小したと思われる。ありとあらゆるものがネット上で取引されるようになり、多くの消費者は正規ルートのネット流通利用に流れていった。

  • 一億総クリエイターの時代

 90年代後半まで、ネットに参加するということは、「自分のホームページを持つ」ということであった。しかし99年に「2ちゃんねる」が誕生し、自分のホームグラウンドをコミュニティに置くという行為が主流となっていく。03年に大手サービスプロバイダでは初めて@niftyが、ブログサービス「ココログ」をスタートさせた。SNS最大手のMixiは、翌04年のスタートである。

 筆者の認識では、ブログはホームページ作成をテンプレート化したものと考えていたが、最近は「はてな村」などと呼ばれるように、サービスごとにある種の特性を持つ共同体を形成するに至っている。広義の意味では、1つのCGMを形成しつつあると言えるかもしれない。

 コンテンツ学会での議論では、この前に「コンテンツシェアの時代があるのではないか」という指摘があった。確かにコンテンツ再生がオンラインで可能になって以降にYouTubeが発生、コンテンツシェアは1つの時代を名乗る重みを持つに足る。だが実はYouTubeの誕生は05年12月、著作権侵害が問題になり始めたのは06年からのことである。時間軸としては、意外に最近なのだ。これは消費者をコンテンツの作り手側として観測するか、受け手として観測するかの立場の違いで、解釈が分かれる点もあろうと思われる。

 さらに消費者が情報発信する課程で、簡単に著作物を引用できるようになったことが、事態を混乱させている。例えば何かテレビ番組の話題をブログの日記に書くとして、その参考としてどこかにアップロードされた番組キャラクターの画像、さらにはそれそのものの動画まで貼り付けることが可能だ。

 これは現行の著作権法に照らせば、消費者の好むと好まざるにかかわらず、私的利用の範囲を超えたコンテンツの違法な利用者扱いとなる。

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