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デジタル分野総ナメ――「2008年デジタルトップ10」麻倉怜士のデジタル閻魔帳(2/4 ページ)

» 2008年12月17日 08時30分 公開
[渡邊宏,ITmedia]

――8位にはWOWOWで放送された、映画「王様と私」です。

麻倉氏: Blu-ray Discパッケージが普及しつつあるとはいえ、まだその絶対数は少なく、HDコンテンツの主役はエアチェックです。そのなかで、ここまでの画質を実現したのかと驚かされたのが、この「王様と私」です。公開は1956年と50年以上前の作品ですが、非常にクリアでノイズも少なく、質感が高く大画面で鑑賞してもダレれることはありません。WOWOWでは昔の映画もよく放送していますが、ここまで高画質なものは類を見ないですね。

 ダンスのシーンで、主演のユル・ブリンナーがエンジ色の衣装を着ているのですが、その色彩はクリアで、相手が着ているシルクのドレスも輝くばかりの質感であることをきめ細やかに再現しています。「芸術作品は芸術的な画質で」というニーズにマッチした画質といえるでしょう。

 近いうちにBD版も出るとは思いますが、エアチェックは「録画した」という達成感も伴います。その喜びも込めての選出としました。

――7位は同じく映画作品ですが、BDでリリースされた「善き人のためのソナタ」ですね。

麻倉氏: この作品はWOWOWでも放送されていますが、BD版が登場しました。旧東ドイツの将校が盗聴していた相手の人間性にほれ込み、人間らしさを取り戻していくというストーリーですが、非常に高画質です。粒子感が細かく、色の乗りも良く、グラデーションも豊かですね。

 一口に映画といっても、ハリウッドとヨーロッパでは画質に違いがあります。ハリウッド系作品は基本的に冒険しない、いわば想定範囲内の色使いが主です。これは万人を対象にしたマーケティング的な色といえます。が、ヨーロッパ系作品は特徴的な色使いを多く用います。本作品では映画ならではの粒子感を作品性へ取り込んでおり、ディレクターズ・インテンションの勉強にもなります。

 代表的な例を挙げると照明の使い方で、尋問やスパイ学校のシーンなど冷たい心を持つシーンでは横から強く照らしハイライトを強調していますが、人間味を取り戻したのちのシーンでは天から光が差し込むよう、上方から照らすといった表現方法を用いています。

 将校であった冷戦下では全体的にコントラストが高く冷たい感じの映像ですが、冷戦終結後、職を失いビラ配りへ身を堕とした際には、コントラストが少ない平均的な光りの当たり方にも変わり、平穏さを感じさせています。

 映像構成とストーリーを同時に展開させてるという、高度なシンクロナイゼーションが作品のドラマチックさを強め、そこが感動を高めているのですね。

――6位はローランドのリニアPCMレコーダー「R-09」です。リニアPCMレコーダーは各社から熟成を進めた製品が多数登場し、ICレコーダー=ビジネス向けというこれまでの市場を変化させましたね。

麻倉氏: 今年はリニアPCMレコーダーの当たり年でした。ローランドやソニーが第2世代の製品を出し、そこへティアックや三洋電機なども加わりました。楽器系メーカーとAV系メーカー、ビジネス系メーカーと、それぞれが製品を出して百花繚乱(りょうらん)の状態だと表現できます。

photo ローランド「R-09」

 これまでのレコーダーはいかに高音質のDATであろうとモーターを搭載せざるを得なかったのでノイズの問題を完全に根絶できず、内蔵マイクによるHi-Fi録音は困難でしたが、記録メディアのメモリ化が進み、高感度マイクの搭載が容易となり、結果として高音質化が図られています。

 各社製品いろいろと試しましたが、利用頻度が高いのはローランドのR-09でした。音質については若干キレが少ない感じも受けますが、有機ELを採用したインジケーターパネルは見やすく、本体も小型でハンドリングに優れています。録音という瞬間をとらえる製品は信頼性や操作安定性がとても重要ですからね。

 ソニー製品もよく使いますが、R-09のほうが生演奏録音の場面で、操作感や確実性といった部分で頼りになる感じがします。ただ、入力インタフェースについては改良の余地ありですね。SACDと同じ1bit/2.8224MHz録音が可能なコルグ製品も良いのですが、ポータブルタイプの「MR-1」はマイクが外付けになっているのが残念です。また、MR-1については録音したファイルをSACD化できるなどのソリューションも展開してほしいところです。

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