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テレビを面白くするいくつかの奇策小寺信良の現象試考(2/3 ページ)

» 2009年03月02日 08時30分 公開
[小寺信良,ITmedia]

構造改革の必要性

 おそらく企業の広報担当者は、番組スポンサー料や広告枠は、昨今の急激な安売りは別として、ながらく値段はそれほど激変しなかったという印象を持つことだろう。なのになぜテレビ番組の制作現場がこれほどまでに疲弊したのか。

 それは、搾取構造が非常に階層的になっていったからである。「あるある大辞典」のねつ造問題をきっかけに、番組制作の発注が子供、孫、ひ孫受けにまでなっていることが多くの人に明らかになった。昔はそれほど階層構造にはなっていなかった。多くの番組は、だいたい局から直接受注した制作会社自身が制作していたものである。このように多層に階層化されていったのも、やはりバブル経済の崩壊の影響は少なくない。

 それというのもバブル期というのは、多くの才能のある人が次々に会社を飛び出し、フリーランスとして独立していった時代だった。なまじ会社で給料を貰って制作に従事するより、1本単価、あるいは時給単価で貰った方が、はるかに稼ぎが良かったからである。しかしバブル崩壊後は受注も厳しくなり、接待営業ができる大手制作会社しか受注できなくなっていった。

 そうなるとフリーランスは、孫請け、ひ孫受けとして入るほかない。これでは稼ぎにならない。そこで少しでも上流で受注できるよう、数人のフリーランスが集まって会社を作る。すると今度は会社を存続させるために、現場に出す人間を安く雇い入れる。この構造が延々と続き、入れ子構造のようなひ孫受けひひ孫請けが発生し、現場には安いギャラでもそこぐらいしか居場所がないような人間が吹き溜まることになる。

 テレビ業界を立て直す抜本的な改革は、この搾取構造を解体するしかないと思っている。これに関しては、先日総務省が「放送コンテンツの製作取引適正化に関するガイドライン」を策定したことが、1つのスタートラインとなるだろう。このガイドラインは、下請法、独占禁止法の適用を視野に入れた、番組制作の環境改善を目指している。

 この中ではトンネル会社の規制や買いたたきなど、違法の可能性のあるありがちな例が挙げられてはいるが、実際にこれらのことが起こらないよう、どこかが監督するなどの具体策があるわけではない。あくまでも被害を受けた側が訴え出ない限り、事態はまったく変わらない可能性もある。現実に公取委が動いて排除勧告を出すなどの「事件」になるまでは、機能しないだろう。

 このような構造改革は、業界70年の古い体質そのものと戦っていく話であり、一朝一夕に改善できるとも思っていない。こう言うことは、やはり省庁・法律レベルで大なたを振るって、破壊のあとの再生に期待するしかない。

どうすれば人はまたテレビを見るようになるか

 テレビ業界人が集まると、最近は良かった頃の昔話しか出てこない。だがいくら昔を懐かしがっても、世の中全体を昔に戻すことはできないのだから、新しいビジネスモデルを作る必要がある。これに対して芽があるのではないかと思うのが、放送の「見逃しサービス」である。実際にプライムタイムと言われる時間帯までに、家に帰れないという意見もネット上では多く聞く。それは遊びが忙しいというだけではなく、仕事で帰れないという人も多いことから、単純に生活習慣だけの問題とは言い切れない。

 一方で、単なる見逃しだけでビジネスになるのかという疑問の声も多い。だが、これまで見逃し対策は各個人が用意したレコーダに頼るのみで、放送局はこれを見て見ぬふりをしてきた。ちゃんとビジネス換算した場合にどれぐらいの市場規模になるのか、まだ未知数の事業なのである。

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