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加速するiPod shuffleの「シンプルさ」

» 2009年03月18日 16時00分 公開
[佐藤眞宏,ITmedia]

 第3世代となるiPod shuffleが発表された。2005年に発表された第1世代製品以来、iPod shuffleは一貫して「シンプル」というキーワードで貫かれている。歴史を振り返りながら検証してみよう。

 「iPod shuffle」という名称が登場したのは、2005年1月のMacworld Expoだった。iPodファミリーはそれまでにもHDDの増量以外にiPod miniやU2 Edition、iPod Photoといったバリエーションが登場してきたが、フラッシュメモリを採用した初の製品としても注目された。

 しかし、最も注目されたのは1万980円/99ドルから(発表当時:512Mバイトモデル)という当時としては破格ともいえる価格設定であり、超小型ミュージックプレーヤーとしての“シンプルさ”だった。ディスプレイはおろか、iPodの象徴的な存在であったクリックホールも非搭載。シャッフル再生のオン/オフスイッチは設けられていたが、インタフェースと呼べるのはメインのコントロールスイッチのみと非常にシンプルな構成となっていた。

photophoto 2005年に登場した第1世代iPod shuffle。中央のメインコントロールスイッチでは再生/停止、早送り/早戻し、音量調整を行えるが、“それだけ”であり、基本的には「再生する」ことに特化した製品としてデザインされていることが分かる

 ポータブルオーディオプレーヤーはそのボディを小さくするとディスプレイが小さくなり、ボタンも必然的に小さくなる。ボディサイズと操作性はトレードオフの関係にあり、どこでバランスを取るかが当時の各メーカーの課題であった訳だが、アップルはあえてiPod shuffleを「ランダムな再生を楽しむプレーヤーだ」と位置づけることで、その課題をクリアしたといえる。

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 「(既存の)フラッシュメモリプレーヤーは“小さなディスプレイ”“快適とは言えない操作性”“ホイールを備えていない”(笑)などの問題を抱えている。iPod shuffleはそうした問題を解決したポータブルプレーヤーだ」(2005年のMacworld Expo/SF基調講演にて。スティーブ・ジョブズ氏)

 これは既にiPodやiPod miniという製品を展開しており、「ディスプレイで曲名を確認したい」「選局をより快適に行いたい」というユーザーに向けてはそれらを提供できていた同社ならではの提案ではあった。また、「低価格製品を実現するにはどのような手法が必要か」という逆算から生み出された可能性もあるが、前述したように、破格の価格設定がなされていたこともあり、iPod shuffleはこれまでデジタルオーディオプレーヤーに食指を伸ばしていなかった層へのアピールにも成功。大ヒットを記録した。

 第2世代iPod shuffleの登場は2006年9月。これまでのUSBメモリ然としたスタイルから一転、「要望が多かった」というウェアラブル性を追加するべく、本体をより小型化しクリップ一体型ボディとして登場した。メインのコントロールスイッチを操作の中心とした「再生するだけ」というシンプルなコンセプトは変わらなかったが、第1世代製品が1つのスライドスイッチで電源とシャッフル再生のオン/オフを行っていたのに対し、第2世代製品では電源スイッチとシャッフル再生スイッチが独立して設けられた。

 登場時の価格は9800円(1Gバイトモデル)で、その後、ピンク/グリーン/ブルー/オレンジのカラーバリエーションが追加されたほか、1Gバイト版の値下げやメモリ容量増加モデル(2Gバイトモデル)も登場した。カラーバリエーションについては、色の名称こそ同じものの色合いの異なるモデルが投入されるなど、ほかのiPodシリーズでは類を見ない多彩なバリエーション展開が行われたモデルでもある。

photophoto 2006年6月に登場した第2世代iPod Shuffle。ウェアラブルな製品を、というユーザーからの要望に応えて登場した

 注意しておきたいのは、第1世代製品では本体と一体化したUSBコネクタとイヤフォン端子が独立していたが、第2世代製品では、これがUSB/イヤフォン兼用の端子に変更されたことだろう。1つのコネクタを廃止することで、一層の小型化が進み、かつ、デザインもよりすっきりとしたものになったことはメリットといえるが、充電/iTuensとのシンク時に専用Dcok(ないしはケーブル)が欠かせなくなった。

 そして第3世代iPod shuffleの登場である。小型化もさらに進められたほか、「シンプルさ」もさらに加速した。クリップ一体型ボディこそは第2世代から引き継いだものの、本体前面からはメインのコントロールスイッチが省かれ、電源/シャッフル再生は上面に1つだけ設けられたスライドスイッチで操作する形式となり、ついにiPod shuffleの本体にスイッチは1つになった。

 再生/停止をはじめとした操作は付属リモコンから行うスタイルとなり、操作アシストの機能として音声ガイダンス機能「VoiceOver」が搭載された。このVoiceOverは再生している楽曲名やアーティスト名、プレイリスト名などを音声で読み上げ、利用者をガイドしてくれる。また、プレイリストの切り替えが行えるようになったのも第3世代から新しく搭載された機能だ(切り替えにはリモコンを利用する)。

photophoto 第3世代のiPod Shuffle。本体から楽曲操作用のボタンがなくなり、イヤフォン一体型リモコンから操作するスタイルとなった

 操作ボタンすら本体から廃することで「シンプルさ」の純度を高めた新iPod shuffleだが、その代償として付属のイヤフォン一体型リモートコントローラーを使わなければ音楽再生ができないプレーヤーとなってしまった。決して付属イヤフォンをけなすつもりはないが、イヤフォンは音の出口であり、周囲の目にさらされる部分だ。変更することで音の変化を楽しんでいる人や、カラーやデザインでイヤフォン/ヘッドフォンをチョイスする人は多い。

 「シンプルさ」を突き詰めるのは決して悪いことではない。VoiceOverの「話しかける」インタフェースもウェアラブル性を高めた、ディスプレイを搭載しないデジタルオーディオプレーヤーとしては優れた解決策だと思う。しかし、それでも付属の純正イヤフォンしか使えないというのはあまりにも間口が狭いと感じてしまう。

 既にサードパーティからリモコン付きイヤフォンやリモコン部のみの販売がアナウンスされているが、「純正品を使わないと聞こえない」というのはミュージックプレーヤーとして、どのように受け止められるのだろうか。ファンであるからこそ、あえてここには苦言を呈したい。シンプルさの追求の結果がこのスタイルであるというならば、筆者には受け入れがたい。

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