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日本式コンテンツ利用への序章小寺信良の現象試考(1/3 ページ)

» 2009年04月06日 16時00分 公開
[小寺信良,ITmedia]

 著作物のより広範な利用に関して、著作権法自体がネックになっているという認識は、もはや多くの利用者にとって無視できない問題である。自分で録画した地デジのテレビ番組は、なぜiPodに移して見ることができないのか。ケータイで買った音楽は、なぜ機種変とともに全部捨てなければならないのか。感銘を受けた作品のオマージュとして、ストーリーの続きを作るのはなぜ許されないのか。

 これらの理屈はすべて著作権で説明できるが、逆に著作権法なしに説明することは難しい。それは商売の取り決めとしてそういうルールなんだからしょうがないねって話ならできるが、倫理的な面からは成立しづらい話だからである。

 3月12日、産学官で形成するデジタル・コンテンツ利用促進協議会は、シンポジウムを開催し、テレビ放送のネット利用に関する「会長・副会長試案」に対してのディスカッションを行なった。一番最初の試案である「ネット権」構想はものすごく評判が悪かったが、そこからだいぶ練り直した今回の試案は、方向性としてはおおむね理解できるものになったように思える。

 ただこの協議会の問題点は、そうそうたる論客が100人単位で会員であるにも関わらず、ほとんどの会員が試案の決定プロセスにまったくタッチできないという点である。内部で検討委員会が立ち上がるといったこともなく、誰がこの案を作っているのか。おそらく名前の通り会長と副会長で作っているのだろうが、議論の場としては機能していない。

 シンポジウムでのディスカッションでは、パネリストから試案に対する異論も出たが、結局は修正されず、そのまま行くのだろう。この協議会には、政治力がある。副会長には自由民主党の世耕弘成議員、民主党の近藤洋介議員、公明党の西田実仁議員が就任している。おそらく議員立法でスルッと通ってしまう公算が大きい。

photo デジタル・コンテンツ利用促進協議会のパネルディスカッション

利用促進協議会案の構造

 会長・副会長試案の骨子は、特別立法により、権利関係をまとめ利益分配を行なう「法定事業者」、コンテンツのデータベースを管理・運営する「コンテンツID管理事業者」、ネットで利用を行なう事業者・個人に許諾と対価回収を行なう「コンテンツ・ライセンス事業者」の三者を置くとするものである。

photo デジタル・コンテンツ利用促進協議会による試案概念図

 権利者はコンテンツに対して、一定の要件を示すことができるようになっている。もっとはっきり言うと、ネット利用の可否を意思表示できるということである。この試案では、そのコンテンツ登録に対してどれぐらいの強制力があるのか、また登録することでどれぐらいのインセンティブがあるのかは不明である。

 この点はパネルディスカッションの席で、日本音楽著作権協会(JASRAC)の菅原常任理事も指摘しているが、要はビジネススキームになってないと、みんな乗らないよということだ。副会長であるスクエア・エニックス代表取締役社長の和田洋一氏は、そこは法定事業者がビジネスとしてもうかるべく努力することで解決できるのではないかとした。

 一方で慶應義塾大学デジタルメディア・コンテンツ統合研究機構の金正勲准教授は、新事業者が3つもあるのは無駄で、法定事業者とコンテンツ・ライセンス事業者は1つにまとめ、映像版のJASRACのような組織にしてシンプルにすべき、と指摘した。仕組みがシンプルなほうが、利益還元率が高まるわけである。

 しかし中山会長は、権利の集約・調整に大変な労力がかかるため、やはり法定事業者は別に必要との考えを示した。おそらくJASRACの菅原氏の手前はっきりは言えなかっただろうが、映像版JASRACという構想は、許諾権の独占につながることを懸念したのではないか。折しもちょうどその頃、JASRCは放送局への包括契約が独占禁止法違反であるとして、排除勧告を受けている(→JASRACに排除命令 公取委、「包括利用許諾」改善求める)

 おそらくこの法定事業者の働きが、この仕組みをうまく動かせるかどうかのキーである。すなわち複雑に絡み合った放送番組の権利窓口を集約して1カ所にしないと、始まらないということなのである。これに関して中山会長は、中世ヨーロッパの土地を引き合いに説明した。

 中世においては、1つの土地の上に複数の権利が重なっていたため、まったく流通ができなかった。1つのモノの上には1つの権利、一物一権主義でないと契約自体が発生せず、流通が始まらないというわけである。流通しなければ、権利者に還元する原資も産まれない。既存の利用形態のままでは、テレビ産業は権利倒れしてしまう。

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