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ショーイベント報道が変わる、そしてその先は?小寺信良の現象試考(2/3 ページ)

» 2009年05月11日 12時25分 公開
[小寺信良,ITmedia]

 日本においても、イベント主催者のオフィシャルサイトはIT化されつつある。しかしその方向性は、米国とは若干違っている。というのも、昨年のCEATEC JAPANにしてもInterBEEにしても、どうもオフィシャルサイト自身がイベントを取材して、独自の情報を出そうとしている。

 これは日本のイベント主催者が新聞・出版系であることに起因するところもあるとは思うが、それとは別の理由として、イベントを報道する取材者の発信能力に差があるからだろうと思う。米国にはいわゆる業界紙、専門メディアの数が非常に多い。雑誌にしてもWebメディアにしてもだ。一方、日本には、新聞系メディアが各業界に1つ2つぐらいある程度で、専門誌の数が非常に少ない。

 したがって専門性の高い取材ができる人材が少なく、メディアから発信される情報が、どうしてもプレスリリースに毛が生えた程度になってしまう。こういう状況では、主催者自らが細かいところを拾ってケアしていかないと、露出されない出展者が出てきて不公平感が高まるというところがあるように思われる。

変わる取材・発信スタイル

 イベントの取材記事は、いまだに写真と書き原稿で構成された、紙ベースのものが主体である。それはWebメディアであってもスタイルとしては同じで、発信のタイミングが雑誌などの出版物よりも早いというだけで、記事制作の基本部分はあまり変わらない。

 筆者もこのようなスタイルのイベント取材には多く関わってきたが、その方法論にはメリットとデメリットがある。まず受け手側のメリットとしては、文章による解説は検索性が高く、スペックなど数字の確認がしやすいという点がある。作り手側の目線も加えると、たくさん取材した中でプライオリティを決め、厳選された情報を掲載するため、読者側としては効率のいい情報収集になっているはずである。

 デメリットとしては、先ほども述べたように、記事作成のハードルが高いという点がある。特に専門性の高いイベントになればなるほど、書き手には基礎体力として、ある程度過去の事情まで踏まえた専門知識が要求される。ところがメディア数が圧倒的に少ないために、記事としてのニーズが低く、専門性の割には書き手のギャランティが破格に低いという矛盾が発生している。多くの業界でも、同じ問題を抱えているのではないかと思われる。

 また、速報性も今の時代では、やや劣ることになる。書き記事の場合は、どう頑張ってもイベントの記事が載せられるのは、その日の夜遅くか、あるいは翌日の朝だ。もちろんそのタイミングである程度まとまった量の記事を掲載しようとすれば、それはもう取材者の執筆能力に大きく依存することになる。すなわちデメリットの大部分は、「それができる人がいない」ということに尽きる。

 しかしここ1〜2年で急速にWebで動画配信というのが現実的になってきた。NABのプレスルームでも、以前に比べて動画取材クルーの比率が増えている。これは米国内だけではなく、世界的な傾向のようだ。

書き原稿による報道スタイルに比べて、動画報道のほうが手間がかかるように思われるが、それはやり方による。テレビ番組のように、編集したあとテロップ入れてナレーション付けてきっちり作り込むと、とてつもなく労力がかかるが、現場で撮ったものをノーカットでそのまま流すスタイルであれば、手間は配信用のエンコードとアップロードぐらいである。

 日本のメディアでは、PRONEWSがこの方法論を取り入れている。写真とテキストによる記事は、プレスリリースを交えながら短くまとめ、細かいところは各ブースでのデモンストレーションの模様をそのまま流すというスタイルである。

 この手法によるメリットとデメリットは、書き原稿報道のそれとちょうど逆転する。すなわち動画で専門的なことを語るのは被写体であって取材者ではないことから、取材者に専門的な知識がない話題であっても、高度な情報を送り出すことができる。またノーカットであることで、実質必要なのはエンコード時間とアップロード時間だけである。したがって短い取材なら撮影して1時間足らずでの公開が可能で、ほぼリアルタイムに等しい感覚で記事を上げることができる。

 デメリットとしては、ある意味、報道内容の吟味や正確さまで含めて被写体に投げてしまうことから、誰に取材するかの選択を誤ると、大きな問題になることだ。またテキストとは違い、一部分だけの直しというのが難しい。さらには記事の更新が、高速なネット回線の確保に左右されるという問題もある。

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