さて、音質とともに気になるシネマDSP<3Dモード>はというと、すでに上位モデルで効果のほどは知っていても、改めて驚かされる新鮮さがあった。「300」の戦闘シーンでは、スクリーンの真ん中から役者の台詞が、上から下に向かって矢の刺さる音が、そして天高くからサントラが同時に響き渡るのである。この立体的かつ部屋のサイズを感じさせない空間表現には、ただただ驚かされるばかり。以前から3D再生を手がけ、得意としてきたヤマハの真骨頂といえる部分だ。
さらにリスニングフィールドが広いことも、シネマDSP<3Dモード>の優位点。デジタル調整されたサラウンド空間は、迫力ある音が楽しめるいっぽうで、少し場所を動くと急に迫力がなくなったり、音場配置がおかしくなってしまうことがある。しかしシネマDSPは、左右に少し移動したくらいではまったく変化なし。立ち上がったとしても、音場バランスが大きく崩れることはない。家族や友人など、大勢で楽しむ際にはかなり重宝する。
映画などで格別の効果を発揮してくれるシネマDSP<3Dモード>だが、個人的に気に入っているのは、ドラマやアニメなど、ステレオ放送をこれで楽しむこと。映画などは放送でも5.1チャンネル化されているが、ドラマやアニメなどはステレオ収録の番組がほとんど。BDソフトの後にそれらを見ると、どうしても音が薄く感じてしまうのだが、AX-V765のサラウンドモードは、そういった“格差”を縮めてくれる効果がある。
とくにオススメは、ドラマモードとスポーツモード(デフォルトで3Dモードはオン)。両者とも不必要な反響感は極力押さえつつ、上や左右に音が驚くほど広がっていくので、それに後押しされて映像の印象が一段と強くなる。こういった楽しみ方ができるのも一興だ。
CDの再生に関しては、AX-V765のピュアダイレクトモードがかなり優秀で、従来機のDSP-AX763に比べて音質的にはかなり良くなった。ただ、さすがに絶対的な細やかさではピュアオーディオ用のパワーアンプに一歩譲る印象。アナログレコードを接続できるPHONO端子も備えているが、本格的なオーディオシステムとしても利用したいなら、兄と呼ぶべき「AX-V1065」のほうを検討するべきだろう。こちらはさらに音質を突き詰めた内容となっており、先日試聴させてもらったテスト機の段階でも、充分音楽を楽しめそうな気配だった。とくにピアノ演奏の再生では、打音の美しい響き、倍音のエアリーな広がりなど、オーディオ専用アンプにも引けをとらない。
手が出しやすい価格帯ながら、AX-V765の実力は充分以上だ。単純に予算が合ったという理由で音を聴かずに選んだとしても、多くのユーザーが満足できるクオリティーを持ち合わせていると思う。ホームシアター初心者や、久しぶりにAVアンプを購入した人なら、このコストパフォーマンスに驚くだろうし、最近のAVアンプを知っている人でも、同じ価格帯でワングレードアップしたような得した気分を味わえるはずだ。
コンテンツ的には、デジタル放送を迫力のサラウンド音声で楽しみたいという人にはうってつけ。一方でBDソフト、なかでも社会派の映画やラブロマンスをよく見るという人にも向いているだろう。役者の演技がより感情豊かに伝わってくるため、その作品に深く入り込むことができる。
そして一番のアピールポイントといえるシネマDSP<3Dモード>は、映画ファンだけでなく、BS/地上デジタルのステレオ放送や、音楽ファンのライブビデオ視聴にも新しい楽しみを与えてくれる。これを使えば、見慣れたソフトでも新鮮に感じるはずだ。
このように、AX-V765は、どんなジャンルのコンテンツでもこなせる、万能機に近いAVアンプ。多くの人に条件なしでオススメできる、この価格帯では貴重な存在といえそうだ。
製品型番 | AX-V765 | AX-V1065(参考) |
---|---|---|
実用最大出力(JEITA) | 135ワット×7 | 145ワット×7 |
HDMIアップスケーリング | 1080P対応 | |
オンスクリーンディスプレイ | ○ | |
入力端子 | HDMI×4、コンポーネント×2、D4×2、コンポジット×5、アナログ音声×6、光デジタル×2、同軸デジタル×2 | |
USB端子 | ー | ○ |
出力端子 | HDMI×1、コンポーネント×1、D4×1、コンポジット×1 | |
PHONO端子 | ○(MM) | |
別売iPodドック | ○ | |
自動音場調整機能 | ○ | |
外形寸法 | 435(幅)×365(奥行き)×171(高さ)ミリ | |
重量 | 11キログラム | 11.1キログラム |
本体カラー | ブラック | |
価格 | 8万4000円 | 11万250円 |
発売日 | 6月下旬 | 7月下旬 |
今回も6畳間をリフォームした自称「極小シアター」で、AX-V765を1週間ほど試用した。スピーカーはフロント3本に「Soavo-3」、サラウンドおよびサラウンドバック、プレゼンスに「Soavo-900M」、パワードウーファーに「Soavo-900SW」を使用する豪勢なレイアウト。ヤマハ同士ということもあってか、Soavoシリーズをしっかりとドライブする力量にビックリ。
プレーヤーは、パイオニア「BDP-LX91」、パナソニック「DMR-BW800」などを使用。ケーブル類にはオーディオテクニカの「アートリンク」シリーズを使い、ケーブルによるロスや変調を最低限に抑えた。
●ヤマハ AX-V765 | |
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