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ガンプラ工場で見た“脅威のメカニズム”実物大ガンダム便乗企画(2/2 ページ)

» 2009年07月15日 15時18分 公開
[芹澤隆徳,ITmedia]
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ガンプラができるまで

photo バンダイ・ホビー事業部製品設計チームの大榎直哉マネージャー

 詳しい話を聞かせてくれたのは、バンダイ・ホビー事業部製品設計チームの大榎直哉マネージャー。同氏によると、30年前と現在の違いは「スピード」だという。

 思い出してほしい。最初のガンプラが登場したのはアニメ放映の翌年で、ボールやアッガイのプラモデルが登場するころには、テレビでは“再々放送”が流れていた(筆者が住んでいた静岡県の場合)。しかし現在では、アニメの初回放送が始まるころには、いくつものガンプラが店頭に並んでいる状況だ。

 「現在では、モビルスーツがイメージイラストの段階でこちらに届きます。アニメとガンプラの製作は同時進行。バンダイの場合、前年度に翌年のラインアップを決めているんです」。

 ただし、イメージイラストや設定資料だけでプラモデルが製作できるわけではないという。現在のラインアップのうち、例えば1/144スケールの「HG」はほぼアニメそのままのデザインだが、1/100スケールの「MG」(マスターグレード)や1/60スケールの「PG」(パーフェクトグレード)といったクラスになると、設定だけでは不十分になる。

 そこで設計者の解釈を取り込み、細かい部分の作り込みを行う「リ・デザイン」の作業を行う。「われわれの仕事がほかの製造業と違うのは、元になるモノが存在しないこと。コンセプトから“実在したら、このような構造であるのだろう”という理論化する方法で、細かい設計を行います」。

 もちろん、オフィシャルの設定やデザイン画は“絶対”であり、ここに変更を加えることはない。考え方としては、「実際の(サイズの)モビルスーツを想像してスケールダウンすること。モビルスーツは、キャラクターであり、兵器でもあります。さまざまなジャンルのブレーンに協力してもらい、アニメの持つ世界観を細かいところまで再現します」。

 設計には3D CADを用い、プリントアウトの代わりに光造形機の「EDEN」を使ってパーツを試作する。このあたりの詳細は、「@IT MONOist」に掲載された別記事を参照してほしいが、平面図から木型を作って金型を起こしていた30年前とは精度もスピードも別次元であることは容易に想像できる。

photophoto 背中に「匠(たくみ)」を背負った技術者が3D CADで設計を行う(左)。パーツを試作する光造形機の「EDEN」(右)。(c)創通・サンライズ・毎日放送

 試作品ができたら金型の製作。3Dデータをもとにアーク放電で金属にパーツの形を彫り込み、細かい部分はレーザー加工機で削っていく。仕上げは職人による手作業だ。「細かい部分は、40ミクロン単位で加工できるレーザー加工機を使います。このフィギュアは、レーザー加工機で制作した1/400サイズのシン・アスカ。顔が分かりますか?」

photo 虫眼鏡をください

 接着剤不要の組み立ては、設計と金型の精度の高さを示している。そして東芝と共同開発したという多色成型機は、1つのランナーに4色までのパーツを成型することができる。応用を加え、異なる素材を1つのランナーに同居させることも可能だ。この柔軟性が、ガンプラの作りやすさと可動性に大きく貢献している。

 例えば「PG RX-78-2」の手。ランナーからパーツを切り離すと、既にボールジョイントを使った指の関節が“出来上がった状態”で出てくる。ジョイントごと成型してしまう設計や金型精度にも驚かされるが、普通に考えれば成型時にくっついてしまうはずの細かい部分が、きっちりと分かれているのは驚きだ。

photophoto 切り離しただけで指の先まで可動する。パーフェクト・グレードって一体…… (c)創通・サンライズ

 「これは、注入する素材の溶ける温度と固まる温度のタイミング、プラス時間を調節することで可能になります」。もちろんそのノウハウは、パテントや企業秘密の範疇になっている。

photophoto 同様の技術を用い、“ランナーから切り離すだけであちこち可動する”「ペラモデル」。ガンプラはハードルが高いという方は、こちらで体験してほしい(左)。多色成形の例はダブルゼータガンダム(c)創通・サンライズ・毎日放送

 今ではガンプラの代名詞となった4色成型の「色プラ」、接着剤不要の「スナップフィット」といった技術は、これら最新の設備が可能にした。ただし、そこには「匠(たくみ)」の文字を背負った技術者たちが欠かせない。冒頭で触れたように、バンダイホビーセンターには企画・開発から設計、金型製作、製造、そして相談センターまでが集約されているため、日常的にディスカッションが行えるのは大きなメリットだという。

 「企画開発の人間まで工場にいるということは、製造の現場を知っているという意味です。オフィスでは、開発チームの隣に金型チームがいる。同じフロアには相談センターも同居していて、消費者や販売現場からのフィードバックもすぐに行える」。

 出来上がった製品デザインのプレビューには、全部署の部長が参加してディスカッションを行う。こうした手順がすべて、ガンプラの魅力につながっている。「近年は(技術の進歩で)効率化が進みましたが、浮いたリソースは製品のバリューアップに使うことが圧倒的に多いですね。で、だいたいオーバースペックになってしまう」(笑)。

 その昔、ガンプラのCMで流れていた「ジオン脅威のメカニズム」というフレーズを憶えている人も多いだろう。当時のガンプラ少年たちにとって、ジオンの製造ラインで次々と生産されていくモビルスーツは、カッコよさと脅威を併せ持つジオン軍の象徴だった(ついでに「量産型はやっぱ数をそろえないとね」という忠実な消費者をも量産した)。

 しかしプラモデル製造の現場には、さらに素早く、精度の高い“脅威のメカニズム”が存在していた。何十年かぶりに手にしたガンプラが新鮮な驚きを与えてくれるのは、30年という時間を経て人の手が作り出した結果といえるだろう。

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