コラム
» 2009年10月05日 10時00分 UPDATE

小寺信良の現象試考:ついに「ガラスの城」が壊れ始めた録音録画補償金制度 (1/2)

「デジタル専用レコーダーは対象外」として、東芝が支払わなかったことで話題となった私的録画補償金。一体何が問題なのか。

[小寺信良,ITmedia]

 10月1日に、東芝がデジタル放送専用録画機ぶんの補償金を支払わなかったことを明らかにした(「デジタル専用録画機は補償金の対象外」 東芝が支払い拒否)。これに関して事情がよくわからず混乱している人も少なくないようなので、今回はこの問題について解説してみたい。

 デジタル放送専用録画機とは、従来のアナログ地上波用のチューナーを搭載せず、デジタル放送しか受信できないレコーダーである。以下デジタル専用機と呼ぶことにしたい。まず前提として、今年5月には東芝とパナソニックが、このデジタル専用機の価格に、録画補償金を上乗せせずに販売していることが明らかになっている(「課金対象か明確でない」――パナソニックと東芝、デジタル専用レコーダーに補償金上乗せせず)。

 日本の補償金制度では、消費者がこの補償金を支払うことになっている。補償金は対象機器の販売価格に含まれており、例えばレコーダーであれば、基準価格(ほぼ実売価格と等しい)の1%で、上限が1000円となる。したがって実売12万円のレコーダーを買っても、上限があるので1000円、消費者は支払っていることになる。

 今年2月から販売され始めたデジタル専用機では、これを集めていないというわけである。ではなぜ、集めないということになったのか。

4年かけても埋まらない溝

 録画録音補償金の存在が多くの人に知られることとなったのは、2005年4月の文化庁 法制問題小委員会に、iPodなどのHDDプレーヤーも補償金の対象に加えるべきという意見書を、権利者団体が提出したことに始まる(「iPodからも金を取れ」――私的録音補償金で権利者団体が意見書)。それまで補償金制度は、CD-RやDVD-Rなどのメディアに詳しい一部の人が知るのみであったが、これをきっかけに多くの人が、知らずに補償金を払っていたという事実を知ることになる。

 そこから延々と補償金の対象機器、DRMとの関係性、制度を拡大するのか縮小するのか、といった議論が続く。2006年には文化審議会内に専門の「私的録音録画小委員会」を発足させて議論を続けたが、デジタル専用機に対して補償金がいるのか、という問題は結論が出ないまま、2008年12月に終了となった。

 今年5月に著作権法が改正され、Blu-ray Discが補償金対象となった。しかしこれはこの委員会の決定ではなく、著作権法を抱える文科省と、オリンピック前になんとしてもダビング10をスタートさせたい家電メーカーを所管する経産省が、08年6月の合意により、実現されたものである。つまり民民では結論たどり着かず、お上がえいやっと大鉈をふるった格好である。

 この両省合意時に発表された「ダビング10の早期実施に向けた環境整備について」という文章(「著作権法施行令の一部を改正する政令案への意見」(リンク先PDF))に、問題点がよくまとまっている。引用すると、

 2.文部科学省は、著作権法30条2項が著作権保護技術の有無が支払い義務の発生要件になるかどうかについて明示的に規定していないと認識している。

 3.経済産業省は、メーカーが、コンテンツの利用を技術的にコントロールすることが可能な場合には補償金制度の対象とすべきではないとの立場を一貫して主張してきており、地上デジタル放送の録画に係る機器・媒体については補償金の対象とすべきではないと考えていることを、認識している。

(中略)

 5.無料デジタル放送の録画の取扱等私的録音録画補償金制度のあり方については、早期に合意が形成されるよう引き続き努力する。

 とある。つまり文科省では、「デジタル放送にはDRMがあるが、それと補償金は関係ないのだ」としているのに対し、経産省では、「メーカーはDRMがあるから補償金はいらないでしょと言ってる」としており、「このすれ違いは早くなんとかしないとね」ということであった。

 録音録画補償金とは、消費者がデジタル録画やデジタル録音を行なうことによる、著作権利者の利益減少を補償するものである。しかしこの利益減少とは、デジタル技術によって多数の無劣化複製が行なわれるものだ。ただ、今、デジタル放送はDRMで複製が制限されるため、権利者の利益減少をもたらすほどの無秩序な大量複製はできなくなった。

 そもそもプレイスシフトやタイムシフトで視聴する場合においては、それを代替する手段を権利者側が提供していないわけだから、それらの行為が阻害するとされる権利者の利益そのものが存在していない。

 DRMと補償金の関係は、これまでも本コラムにて早くはっきりさせないと様々な遺恨を残すことになると指摘してきた。だがこの制度の趣旨を議論する場であった私的録音録画小委員会は、事実上物別れに終わってしまっている。

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