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» 2009年11月30日 15時13分 UPDATE

本田雅一のTV Style:2009年秋、フロントプロジェクターの注目機種(3)

プロジェクターについて話を進めてきた今回のシリーズ。最後はハイエンド製品を中心に、パナソニック、ソニー、ビクターの製品を取り上げていこう。

[本田雅一,ITmedia]

 プロジェクターについて話を進めてきた今回のシリーズ。前回までに三菱電機やエプソンの製品を取り上げてきたが、最後はハイエンド製品について話したい。上位モデルについては詳しく紹介するよりも、見るべきポイントを示唆し、ご自分の目で判断して頂く方が良いと思うが、そうはいってもなかなか理想的な環境で複数の製品を評価する機会は少ないものだ。

photo パナソニックの「TH-AE3000」

 しかし、その前に惜別の念を込めてパナソニックのAEシリーズに、“つかの間のお別れ”の言葉を書いておきたい。表だって発表をしているわけではないが、パナソニックは家庭向けプロジェクター市場向けの製品について、「TH-AE3000」でいったんの区切りを付けた。実は海外では今年、「TH-AE4000」という新モデルが登場しているのだが、日本では流通していない。

 TH-AE3000という機種は、フルHD化後に続いたパナソニックの一連のホームプロジェクターの中で、初めて「これはイイ!」と心に響いた製品だった。良くいうコントラストうんぬんの話ではない。絵の質感を描き分ける表現に優れていたのだ。硬さと柔らかさ、奥行き感の違いなどが明確に描き分けられ、ガンマカーブやホワイトバランスの安定度も向上した。

 それまでのパナソニック製フルHDホームプロジェクターは、どれも暗くて絵作りはそこそこ良いのに、どうにもパワフルさに欠ける印象だったが、TH-AE3000はその点も大きく改善されていた。今でも流通在庫が処分価格で売られているのを発見したなら、手軽に本格的なシアターを始めたいユーザーにとって、悪くない買い物だと思う。

 なぜこんなことを書いているかというと、実はTH-AE4000の出来は(透過型より反射型が上などといった)プロジェクター方式の序列を覆すような、とても良い絵を出していたのを目撃したからだ。ディテールクラリティプロセッサの効きがとても良くなり、非常にスッキリとS/N感よく、しかもディテールの情報を失わずに見せる。どうやら全面的に映像処理LSIを改修したようだ。

 しかも、同シリーズでは明らかに明るさが出ていたTH-AE3000よりも、さらに実効光量が向上している。パッと見に明らかに元気が良い絵が出てくるのだ。これなら映画館の標準上映値ぐらいの明るさを、0.9前後の低ゲインスクリーン+120インチクラスのサイズでも出せるのではないだろうか。ホワイトバランスの整いかた、肌色の安定して偏りのない発色など、どこを見ても素晴らしい仕上がりになっている。

 話に聞くところでは、これだけの良い成果を上げつつあるホームプロジェクター部門が、とうとう海外向けも含めて解体されてしまい、ノウハウを持ったエンジニアも散り散りになると聞いている。北米ではホームシアター向けプロジェクターとしてはかなり人気があったと聞いているだけに、実にもったいない。本当にノウハウが失われ、手遅れになる前に何かこの技術を生かす手段を考えるべきだろう。

 と、パナソニックに対する言葉が長くなってしまったが、上位モデルに関しては各製品を評価する上でのポイントだけを紹介しておきたい。

photo ビクターの「DLA-HD950」

 まず人気の日本ビクター「DLA-HD950」。“人気の”と書いたように、50万円を超える高級プロジェクターに関しては、ほとんどビクター決め打ちの指名買いが多い。圧倒的なコントラストへの支持が、ここ数年で定着しているせいもあるだろう。

 ただ個人的には、「DLA-HD1」「DLA-HD100」「DLA-HD750」と続いたビクターの高コントラストプロジェクターには、グッと来るところがなかった。理由は高コントラストなのだが、黒い被写体の表現力、暗部階調の粘り感やホワイトバランスの安定性、色再現の直線性などが、ほんの少しずつズレて感じていたからだ。

 この点は、ソニーと比べるよりも、同社の「HD10K」(DLA-HD11KやDLA-HD12Kで使われていた投写部ユニット)と比べた方が分かりやすい。HD10KのコントラストはHD1などよりはるかに低い2000:1しかなかったが、黒側の表現力やホワイトバランスの安定感ははずば抜けていた。

 これらに加えてハイライトに近い明るい部分の描写が、やや平坦に見えることがあるなど、細かなところでちょっとばかり不満があったためだ。

 しかしDLA-HD950では、暗部階調の描写がかなり改善されたように思う。倍速表示対応となり、デジタル駆動のD-ILAを採用するDLA-HD950は階調表現が不得手になっているはずなのだが、そういったハンディキャップは感じさせず、むしろDLA-HD750よりも表現力は上がっていた。ハイライト近い部分での表現力には、より一層の改善を望みたいが、DLA-HD1に始まるデジタル駆動版D-ILAプロジェクターも、いよいよ完成の域に近付いたと思う。

photo ソニー「VPL-VW85」

 最後に、ソニー「VPL-VW85」についてもコメントしておきたい。型名は前年モデルから5しかアップしておらず、マイナーチェンジと思っている方も多いようだが、とんでもない。

 確かにスペック上はたいした違いじゃないと見えるかもしれないが、ネイティブコントラストが大幅に向上したことに加え、これまでソニー製プロジェクターのアキレス腱だった自動アイリス制御が極めて自然な制御となり、試聴を”邪魔する”ことがなくなったのである。

 これだけコントラストが高まれば、ダイナミックなアイリス制御をオフにしても、もちろん充分なダイナミックレンジが得られる。ソニー製プロジェクターの特徴である階調性の高さや黒に近い階調部分の絶妙なガンマ設定なども生きるはずだ。ほとんどの視聴環境、映画に合うであろう多数のガンマカーブプリセットも便利だ。

 新しい絵作りへのチャレンジも行われているが、基礎体力が向上した事に比べれば、まったく小さな変更でしかない。今年一番のパーソナルベストを1台だけ選ぶとするなら、僕ならDLA-HD950と迷いつつも(ビクター製プロジェクターはスーパーホワイトを再現しない問題が解決すれば良いのだが)、VPL-VW85を選ぶ。

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