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HD時代のホームシアター作法麻倉怜士のデジタル閻魔帳(2/4 ページ)

» 2009年12月02日 08時00分 公開
[渡邊宏,ITmedia]

 音楽作品ではNHKクラシカルの作品が素晴らしいです。第1弾は以前この連載で紹介した「悲愴」で、その後に『「幻想」&「巨人」 小澤征爾・サイトウ・キネン・オーケストラ』『ハイティンク指揮 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 ペライア』『水戸室内管弦楽団 メンデルスゾーン・プログラム 小澤征爾 小菅優』と続いています。いずれも96kHz/24bitの非圧縮サラウンドで、NHKらしい「音楽を生かす映像」も共通しています。

 最新の「水戸室内管弦楽団 メンデルスゾーン・プログラム」は前述したように映像も素晴らしいのですが、音はさらに素晴らしくなっています。96kHz/24bitの非圧縮5.1chサラウンドは変わりませんが、DSD録音でレコーディングにはガラスCDでその名を知られるエヌ・アンド・エフが行い、同社の考案したマルチチャンネル用マイクセッティングが用いられています。この音はほんとうに素晴らしく、暖かさやまろやかさといったDSD録音のニュアンスに、PCMの鮮明感・解像感という要素が加わっているのが聴きどころですね。

 この作品のマスタリングには、キュー・テックのマスタリングプロセス「FORS」が利用されています。これはXRCD/XRCD24のようにマスタリング環境を徹底的に整え音質確保を狙うというもので、機材設置からクロックの管理までさまざまな部分に細心の注意を払い、オリジナルの画質・音質を確保する役割を果たしています。これまでにもBDボックス「黒澤明監督作品 AKIRA KUROSAWA THE MASTERWORKS Blu-ray Collection」などに利用されていますが、音楽映像作品での使用は初となります。

 「黒澤明監督作品〜」に入っているBD版「七人の侍」をFORSあり/なしで見比べたことがありますが、雨中の決戦シーンではFORSでマスタリングされた方は、ベールがはがれて透明感が増し、音の粒が立ってクリアだったことを覚えています。この良さが映像作品である「水戸室内管弦楽団〜」の音質にも貢献しています。

 話が少々ずれましたが、NHKクラシカルの各作品はオーディオマニアであり、かつ、音楽映像のプロである方がプロデュースと映像ディレクションしており、「悲愴」ではベルリンフィルの録音に長く携わったベテランを、オランダで公演された「ハイティンク」では元フィリップスのエンジニアを起用するなど、絵作り・音作りのプロを集結させています。そんな芸術の価値が幾重にも詰まった天下の大作をBDで楽しめるようになったのはうれしいことですね。

成熟の時代に入るBDプレーヤー

麻倉氏: ハードウェアで昨年から注目しているのはデノンです。BDプレーヤーについて、すでに確固たる地位を確立しています。プレーヤー(再生機)はプレーヤーならではの映像を作り出すことにその存在意義があり、デノンの製品は、ディスクに込められた映像を最大の画質で取り出すことに長けた機械といえます。

 BD機器といえばレコーダーでソニーとパナソニックの印象が強いことは否めませんが、デノンはDVD時代に自社でメカと回路の開発製造を行い、その製品は上級のクオリティを持っていました。BDの時代に入り、同社らしい高品位な製品として登場したのは「DVD-A1UD」をはじめとした昨年秋以降のモデルです(→麻倉怜士のデジタル閻魔帳:Blu-ray Discの現在地、進歩するプレーヤー)。

photo デノン「DVD-A1UD」

 DVD-A1UDではプレーヤー/アンプ間をつなぐ「DENON LINK 4th」の存在が非常に大きいです。これは映像と音楽はHDMIでやりとりし、さらにプレーヤー/アンプのクロック周波数をイーサネット経由で同期させるものです。これによって、クロック周波数の違いに起因するノイズを抑制しています。同様の仕組みはソニーやパイオニア製品も備えますが、マルチストリームでのクロック同期が行えるのはデノン製品だけです。

 DVD-A1UDはHDMIを2系統用意して映像と音声を別伝送していますが、HDMIはどれだけ対策を施しても、その音にはやはりトゲしたデジタル的な堅さが残りやすいのです。DENON LINK 4thでクロック同期をとると音の角が取れ、音の粒子に暖かさを感じられるようになります。また、映像もベールが取れたような解像感を得ることができるのです。

 現在はクロック同期にイーサネットケーブルを利用していますが、HDMIのバージョンが1.4となればHDMIでクロック同期をとることが可能となりますので、来年秋ぐらいに各社が投入してくる製品は同様の機能を実装してくるでしょう。そうなるとA社のアンプとB社のプレーヤーではクロック同期がとれないといった、メーカー間での互換性問題が生じるかもしれません。

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