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再起動が求められるコンテンツ立国日本小寺信良の現象試考(1/2 ページ)

» 2010年01月12日 11時00分 公開
[小寺信良,ITmedia]

 2009年の日本を振り返ってみると、「閉塞(へいそく)感」という言葉がだんだんシャレにならないレベルになってきたというのが、多くの人の偽らざる感想なのではないだろうか。今回は昨年起こった知財に関する問題を振り返りながら、今年注目すべきポイントについて、解説してみたい。

知財保護強化

 今年1月1日より、著作権法による「ダウンロード違法化」が施行された。ネットでもポツポツと話題になってはいるが、正直、決まったことを今さら批判しても遅い。

 著作権法の権利者保護強化は、すでに数年前から続いてきた傾向である。その背景には、日本にもブロードバンド網が本格的に普及し、またモバイル回線も高速化したことで、音楽・映像ファイルの大量アップロード/ダウンロードが可能になったこと、そして景気低迷により、娯楽産業である音楽業界からまず最初に景気が悪くなったため、音楽関係の権利者団体が知財保護の引き締め策に走ったことがある。

 さらに今年は知財関係で、さまざなな規制強化が図られようとしているが、経産省主導で進めている「模造品・海賊版拡散防止条約」(ACTA)構想には注目しておきたい。もともとはアジア地域における偽ブランド品などの流通を阻止するための国際条約を作るという話だったのだが、コンテンツなどのソフトウェアにも範囲が拡大してきた。

 現在ネット上の違法コンテンツは、著作権法の枠内で削除依頼などの措置がとられているが、それとは別枠で新たな法ができる可能性がある。もちろん、他人が所持する知財を勝手に流通させることは食い止めなければならないが、「どうやって」の方法による弊害が細かく吟味されないまま進められるのが一番困るわけである。

 昨年12月に内閣官房知的財産戦略推進事務局が行った意見募集「インターネット上の著作権侵害コンテンツ対策に関する調査」は、おそらくその布石であろうと思われる。この中では、

(1)侵害コンテンツの迅速な削除を容易にする方策について

(2)権利侵害者の特定を容易にするための方策(発信者情報の開示)について

(3)アクセスコントロールの不正な回避(注)を防止するための方策について

(4)損害賠償額の算定を容易にするための方策について

(5)侵害コンテンツへ誘導するリンクサイトについて

 という5点についての具体的な意見を求められていた。これから察するに、侵害コンテンツを片っ端から削除し、アップローダーに対して民事訴訟で損害賠償を起こす気満々であることが分かる。そもそも知財侵害に関する条約は中国が加入しなければほとんど意味がないと思われるが、ACTAの策定には現在中国は参加していない。ACTAは日本が中心となって動いている条約構想であり、外務省が国際的地位確保のため、リップサービスとしてハードルの高い条約を締結するのではないかという見方も出てきている。

 ACTAに関する情報は、現在ほとんどマスコミを含め民間には公開されておらず、突然とてつもない方向で決まる可能性もある。今後は要注意のポイントだ。

 筆者は違法コンテンツの取り締まりに関しては、かなり悲観的な見方をしている。というのも、そもそも社会秩序が保たれるのは、国が豊かな場合に限るからである。政権交代という歴史的偉業から3カ月、現実にはまだ具体的な景気対策は何ひとつ行なわれていない。このまま景気低迷が続けば、多くの人はグレーゾーンのコンテンツや、あるいは違法と知りながらも、そういうコンテンツに追い詰められていくのではないか。

 違法着うたに関する規制強化も行なわれつつあるが、なぜ多くの違法着うたに手を染めるかと言えば、コンテンツが高すぎるからである。昨年3月の日本レコード協会らが調査した結果(違法音楽配信サイト、約半数が「着うたが安くなったら使わない」)では、どのような場合に違法なサイトの利用をやめるかを聞くと、「有料着うたの料金が下がった場合」という回答が51.1%で最多となっている。それに対する対策もなく単に規制だけを強化しても、人は鞭だけでは動かない。AppleのiTunes Storeが成功した理由にもっと目を向けるべきだ。

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