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春のビデオカメラ総括麻倉怜士のデジタル閻魔帳(2/3 ページ)

» 2010年03月10日 08時49分 公開
[渡邊宏,ITmedia]

プログレッシブ記録の世界に踏み込んだ意欲作 パナソニック「HDC-TM700」

麻倉氏: パナソニックのHDC-TM700ですが、ついにフルハイビジョンのプログレッシブ記録をとうとう家庭に持ち込みました。これまでとは違う映像の世界が始まるということを喧伝(けんでん)しています。国内では映し出すテレビがインターレースで、1080p/28Mbpsのプログレッシブ記録も独自規格だという問題はありますが、他社の追従もあり得るでしょう。

photo HDC-TM700

 規格というものはその性質上、策定された瞬間に進化が止まります。少なくとも進化のスピードは遅くなります。AVCHDでいえば規格策定は2002年ですから、時代の変化に即した規格の拡張は求められます。

 レンズは35ミリ換算35〜420ミリ(動画撮影時)の光学12倍ズームレンズですが、超解像技術を利用したiAズームを利用すれば18倍までの拡大が行えます。超解像はテレビやプロジェクタなど表示側の機器に搭載されるケースが多かったですが、送り手側でも利用できる技術です。ビデオカメラへの搭載を考えると、SDをHDとして記録するほか、本製品のようにこれまではレンズによって解決するしかなかった領域へ適用するなどいろいろな試みが考えられます。

 従来のパナソニックのムービーは「記憶色200%」ともいえる派手な色彩が特徴でしたが、、本機はこれまでの同社製品からすれば物足りないと感じるぐらいに、色に厚みがなくさらりとしています。コントラストは非常によく、また、輪郭強調しているわけではありませんが、かなりシャッキリ・クッキリとしています。問題は光量の足りなくなりやすい室内での撮影です。デジタルノイズリダクション(DNR)の効きが強く、ノイジーという程でもないのですが、DNRが原因と見られるボケが発生しています。階調はそれなりに得られていますが、緑が強くでる傾向があります。

 プログレッシブ記録は、斜めのシャギーがなくなりとてもスムーズな映像です。プログレッシブ記録らしく情報量のある映像ですが、精密というよりなめらか、しっとりとした感じといえます。力強さに欠けるともえますが、インターレース記録も選択できますから、鮮鋭感を求めるひとにはインターレース、フィルム的な滑らかな感じを求めるならばプログレッシブと選択すればよいでしょう。

 本体は軽量で、重量バランスも適切です。すべてのビデオカメラにいえるのですが、構えた際に右手指先をかけるところがなくて、安定しません。そのためにより強く力を入れないとホールディングがしっかりしません。それはともかく、全体としてはイノベーティブで提案性も随所に感じられ、良い製品であると思います。

王者の貫録、ソニー「HDR-CX550V」

麻倉氏: 次はソニー「HDR-CX550V」です。ソニーのハンディカムシリーズは昨年春の製品から他社に先んじていますね。広角側の効きを強めた手ブレ補正はさすがと思わせますし、GPSは追従してくるメーカーすらありません。ある時点でドンとイノベーティブなことをしてきたのが効いていますね。

 レンズは29.8ミリからと広角化を進めました。ハイビジョンはアスペクト比がSDに比べて横長であることから、ひいて撮影するとよりその映像を楽しめるという特徴があります。16:9のテレビが普及している今だからこそ、広角化が効いてきます。テレビとのマッチングを上手にこなしてきましたね。

photo HDR-CX550V

 ついにAVCHDの規格上限である24Mbps記録モードを備えたところも注目すべきところです。昨年春にはブレ補正、昨年秋にはさらなるブレ補正強化、今春には広角化と強化していき、本製品では絞り優先オート撮影モードを備えています。虹彩絞りを生かすには絞り開放の撮影が有効ですから、これも納得のいくところです。ビューファインダーも搭載しましたし、スキのない1台といえるでしょう。

 画質ですが、裏面照射CMOSセンサーの搭載もあり、屋内の暗いところでもノイズが少ないです。白トビが気になる場面もありますが、屋外ではパナソニック「HDC-TM700」と逆に、色再現性に優れ、彩度がよくてカラフルな映像です。階調感もよく出ています。青空を白と認識することもなく、青空として認識します。色が濃いバラなどの色調も上手に表現します。同社のビデオカメラは過度な強調なしに階調感を重視する絵づくりですが、欲を言えばもう少し鮮鋭さも欲しいとも感じました。

 ブレ補正性能はとても強力で、操作性にも優れます。既存モデルから少々ボディは大きくなりましたが、それは液晶モニターの大型化によるもので、致し方ないでしょう。タッチパネル液晶のユーザーインタフェースはこなれて操作しやすいのですが、グレアなので屋外での反射に弱い印象を受けました。

 強いて言えばアクセサリーシューのフタが開きやすいことが気になりますが、好評だった既存モデルよりさらに完成度を高めています。他社に先んじているのでさまざまな課題が判明し、その課題を先んじて対処するので、より完成度が高まるという好循環にソニーがいることを強く感じさせる製品です。

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