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3Dの“鉄則” シャープ編麻倉怜士のデジタル閻魔帳(2/2 ページ)

» 2010年08月25日 22時56分 公開
[ 聞き手:芹澤隆徳,ITmedia]
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麻倉氏: もう少し頑張ってほしいところは、クロストーク対策です。液晶テレビのクロストーク対策は、クロストークが生じるときは液晶パネルにバックライトの光を当てないというアプローチで、明るさとのバーターになります。クロストークを減らすためには画面が暗くなるのですが、シャープの場合、輝度重視のため、若干ながらクロストークが見えました。例えば「スカパー!HD」で放送した倖田來未のライブ映像では、コントラストの強いシーンで二重像が見えました。画面が暗くなると目立たなくなりますが、絵に力がなくなってしまいます。ただ、私が見たのは最終版ではなかったので、その後のチューニングで改善されていることを期待しています。

 クアトロン3Dは、2Dテレビとしての最高峰を維持しながら、同時に3Dを展開するアプローチです。では、3Dにおける高画質とは何でしょう。パナソニックやソニーはあまり言っていませんが、シャープはストレートに“明るい”“色もキレイ”と言えます。3番目に発売した会社としては大きな強みになるでしょう。

――クアトロン3Dは、4原色化も話題になっています

 色の再現範囲を広げる技術にはさまざまな方法論があり、例えばRGBのLEDを使ったバックライトもその1つです。2年前にシャープが発売した「AQUOS XS」は、RGBのLEDを3000個も使っていて、とてもキレイでしたが、価格は約150万円もしました。今の市場の流れでは、同じ方法を使うのは難しいでしょう。現在主流の白色LEDでは、せっかくRGBで広げた色再現範囲がまた狭くなってしまう。それを補完するために出てきたのが4原色化です。色に対する別のアプローチですね。

photo 3原色と4原色の違い。写真のデモンストレーションは、実際に表示しているテレビ画面を顕微鏡で撮影している

 液晶テレビでは、画質改善にさまざまな方法があります。UV2Aは、パネルそのものを変える技術で、LEDはバックライトに変化をもたらしました。このようにシャープの液晶開発は多岐に渡り、1つの目標に対していくつものアプローチをとることができます。だからこそ進歩が早いのです。

 液晶テレビの原色(さまざまな色を作り出すもとになる色)を増やすというアプローチは、各社が10年ほど前から研究しています。例えば、イスラエルのジェノア・カラー・テクノロジーズは、従来のRGBに補色を加えた液晶パネルを開発しました。これは日本でもPRしたのですが、国内メーカーが採用した例はありません。それに限らず、これまでの問題は、RGBにC(シアン)やY(イエロー)という新しい原色を加えると、1画素あたりの面積が広くなり、同じ画面サイズでは解像度が低くなってしまうからです。

 しかし、シャープにはワン・アンド・オンリーのUV2A技術があります。そう簡単に真似はできません。高効率液晶だからこそ発光エリアを狭めても明るく、色再現性と高輝度が成り立つのです。シャープはもともと5原色の研究を進めていました(YとCをプラス)が、今回は経済的な合理性を考えて4原色でスタートしました。実際の映像を見ると、明らかに良いのが黄色系の発色。ひまわり畑や陶磁器の金色など、これまで見たことのない色鮮やかさがあります。

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 もう1つシアンもきれいです。これは黄色を加えただけではなく、反対側のシアン部分もグリーンのパワーを調整することで良くなりました。色度点が変わったので、SRGBという狭い帯域の間でどのようにマネジメントしていくかが問題になりますから、通常信号を破たんなく見せるために開発担当は相当に苦労したはずです。当初は赤の再現性や肌色の発色に難しい部分もありましたが、最終的ながんばりが効いて、不自然なところは相当少なくなっています。ゴージャスで絢爛たる色は、3Dの効果も高めていますね。

 最後にもう1つ。新しい映像モード「映画(クラシック)」にも触れておきたいです。これは、いままで高画質化のために言われていた条件を変えるものです。例えば、最近「風と共に去りぬ」が非常にキレイにリストアされましたが、こうしたクラシック映画を美しく再現するため、テクニカラーの色域にフォーカスしました。しかも毎秒48コマで映画のカタカタ感を再現します。色の古風さでコンテンツにふさわしい時代背景まで再現する――これが表現なんだというアプローチですね。画質向上の流れには逆らうものかもしれませんが、こうしたデグレイド技術が採用された例は今までありません。

 情報量を減らしてどう見えるかを問う。これはベースの情報量が豊富になったからこそできることで、とても面白い発想だと思います。超解像は使ってもノイズは殺さず、映画の味わい感のようなものを液晶テレビが獲得したことは、とても意義がありますね。技術と感性の進歩を感じます。

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麻倉怜士(あさくられいじ)氏 略歴

 1950年生まれ。1973年横浜市立大学卒業。日本経済新聞社、プレジデント社(雑誌「プレジデント」副編集長、雑誌「ノートブックパソコン研究」編集長)を経て、1991年にデジタルメディア評論家として独立。自宅の専用シアタールームに150インチの巨大スクリーンを据え、ソニー「QUALIA 004」やBARCOの3管式「CineMAX」といった数百万円クラスの最高級プロジェクターとソニーと松下電器のBlu-ray Discレコーダーで、日々最新AV機器の映像チェックを行っている、まさに“映像の鬼”。オーディオ機器もフィリップスLHH2000、LINNの CD12、JBLのProject K2/S9500など、世界最高の銘機を愛用している“音質の鬼”でもある。音楽理論も専門分野。

 現在は評論のほかに、映像・ディスプレイ関係者がホットな情報を交わす「日本画質学会」で副会長という大役を任され、さらに津田塾大学の講師(音楽史、音楽理論)まで務めるという“3足のワラジ”生活の中、精力的に活動している。

著作

「ホームシアターの作法」(ソフトバンク新書、2009年)――初心者以上マニア未満のAVファンへ贈る、実用的なホームシアター指南書。

「究極のテレビを創れ!」(技術評論社、2009年)――高画質への闘いを挑んだ技術者を追った「オーディオの作法」(ソフトバンククリエイティブ、2008年)――音楽を楽しむための、よい音と付き合う64の作法

「絶対ハイビジョン主義」(アスキー新書、2008年)――身近になったハイビジョンの世界を堪能しつくすためのバイブル

「やっぱり楽しいオーディオ生活」(アスキー新書、2007年)――「音楽」をさらに感動的に楽しむための、デジタル時代のオーディオ使いこなし術指南書

「松下電器のBlu-rayDisc大戦略」(日経BP社、2006年)──Blu-ray陣営のなかで本家ソニーを上回る製品開発力を見せた松下の製品開発ヒストリーに焦点を当てる

「久夛良木健のプレステ革命」(ワック出版、2003年)──ゲームソフトの将来とデジタルAVの将来像を描く

「ソニーの革命児たち」(IDGジャパン、1998年 アメリカ版、韓国、ポーランド、中国版も)──プレイステーションの開発物語

「ソニーの野望」(IDGジャパン、2000年 韓国版も)──ソニーのネットワーク戦略

「DVD──12センチギガメディアの野望」(オーム社、1996年)──DVDのメディア的、技術的分析

「DVD-RAM革命」(オーム社、1999年)──記録型DVDの未来を述べた

「DVD-RWのすべて」(オーム社、2000年)──互換性重視の記録型DVDの展望

「ハイビジョンプラズマALISの完全研究」(オーム社、2003年)──プラズマ・テレビの開発物語

「DLPのすべて」(ニューメディア社、1999年)──新しいディスプレイデバイスの研究

「眼のつけどころの研究」(ごま書房、1994年)──シャープの鋭い商品開発のドキュメント


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