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「CEATEC JAPAN 2010」総括(2)、麻倉怜士的“CEATECベスト3”麻倉怜士のデジタル閻魔帳(3/4 ページ)

» 2010年10月21日 16時55分 公開
[聞き手:芹澤隆徳,ITmedia]

第1位、裸眼立体視ディスプレイの課題

麻倉氏: 第1位は、裸眼立体視ディスプレイの新しい動きです。今年のCEATECでは、朝10時の開場とともに東芝ブースに走る人が多く、ちょっとした名物になりましたね。それでも展示を見るまでには30分かかったそうです。東芝は今回の展示に自信を持っていて、展示コーナーに入れる人数を制限して“心ゆくまで”見てもらおうとしたわけです。

photo 参考展示の56V型グラスレス3Dテレビ

 展示コーナーには、開幕前日に発表された12V型、20V型のほかに、参考出品の56V型とノートPCもありました。中でも感心したのは20V型です。12V型は、自然に見えるけど、解像感が少し甘い印象でした。20V型は720pなので、それなりの解像感があり、適切な視距離をとればかなり自然に見えます。例えば、デモンストレーション映像にあった湖と緑の木々は、本当にクルマの窓から湖を見ているような自然さがありました。メガネで感じるような違和感がとても少ないのはメリットですね。

 東芝は、2D-3D変換技術に多視差変換技術を組み合わせ、総合的な信号処理と光学処理を含めたトータルな取り組みで裸眼立体視ディスプレイを開発しました。発売はまだ少し先ですが、完成度はかなり上がっていると思います。

 一方、JEITAブースではNHKの裸眼立体視ディスプレイを展示していました。こちらは8K4Kパネルを使っていましたが、画面はかなり甘い印象です。というもの、東芝が水平方向のみの9視差だったのに対し、NHKは縦方向にも視差を持っているからです。

photo JEITAブースに展示された裸眼立体視ディスプレイ。垂直方向にも視差を持つ

 裸眼立体視ディスプレイは、まず解像度が低くなる点が大きな課題です。本来、メガネのいらない裸眼立体視は、メガネを使う3Dテレビよりも自然な状態で見ることができます。しかし解像度が低いのは大きな問題。せっかくの裸眼立体視なのにリアリティーが阻害される要因になってしまいます。

 画作りも課題です。今回の展示は色が濃く、店頭向けに見えました。裸眼立体視ディスプレイは、2D以上に精密でリアリティーの高い画を作らなければなりません。

 それから、視野角が狭いことも挙げておきましょう。メガネ付き3Dテレビでは、メガネさえかければ、とりあえずディスプレイの視野角に問題がない限りは3D映像は見えます。しかし、裸眼立体視ディスプレイではかなり制限されてしまう。メガネという制約が外れたのに、逆にそこ(適正視聴位置)にいかなければ見えないというパラドックスになっています。

 裸眼立体視ディスプレイは、この3つが課題。商品が市場に出ると、まったく新しいテレビですから、ユーザーはいろいろな見方をするはずです。それにどう対応し、折り合いを付けるかを考えていく必要があります。ただ、東芝の裸眼立体視ディスプレイは実に注目すべき提案であり、競合他社にショックを与えたかもしれません。そうした意味で、東芝の戦略的な商品といえますね。

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