ITmedia NEWS >

麻倉怜士が直視した東芝の新興国戦略「メイドインジャパン」から「クオリティージャパン」へ(2/2 ページ)

» 2010年12月22日 12時53分 公開
[麻倉怜士,ITmedia]
前のページへ 1|2       

新興国向けに特化した第2事業部

 東芝はこれまで新興国市場で弱かった。その好例が中国だ。かつては「バズーカ」シリーズやリアプロジェクションテレビなど特長のある製品で名をはせたものの、2004年に液晶テレビを出して以降は、他社の成長を尻目に東芝の成長は鈍っていく。

 「なぜ弱かったのかというと、すべての目が先進国に向いていたからです。グローバル戦略で基本的には同一モデルですが、まず先進国向けの製品を作り、それを新興国向けにアレンジしていました。後手に回ってしまい、現地のニーズに合わないものがタイミング悪く出ていました」(徳光氏)。

徳光氏と麻倉氏。発表会の後でインタビュー

 これまでの失敗の理由は分かった。現地向けの製品がタイミング良く出てこないというのが大きな理由であれば、そこを改善すればいい。東芝はまず、自社展開による販路開拓をやめ、TCL集団との合弁に活路を見いだした。販売合弁会社「東芝ビジュアルプロダクツ(中国)社」を設立。現在は2200店舗ほどの取扱店を、2013年度までに1万5000店舗まで増やすという。これでタイムリーに製品を出せる販売体制は確保できる。

 もう1つは現地のニーズに合った製品の開発だ。そのための戦略的な、いや“策略的”な戦略が徳光人事だった。

 徳光氏は、10月1日に第2事業部長になる前は、旧テレビ事業部の技師長であった。これまで、東芝のテレビ事業部は営業職出身などの“文化系”がトップになるのが常であった。テレビ事業の基盤が確立した後は、営業系の勢いを持ったリーダーシップが求められていたわけだ。しかし、技術者がトップになれば、まず“ものづくり”から始めるだろう。市場にタイミングよくものを送るには、ものづくりに長けた人がトップになるのがよい。それが、今回の人事の狙いであった。

 さらにもう1つ。事業部の組織を分けたことも「策略的」だ。従来の組織は、いわば機能別であり、商品事業部がものづくりを行い、販売事業部が全世界を相手に販売していた。しかし、先進国ばかりを見ていては新興国では販売のチャンスを逃してしまう。そこで機能別ではなく、市場別に事業部を再編成した。

 第1事業部が先進国、第2事業部が新興国を担当する。もう少し分かりやすく言えば、第2事業部の担当は中近東やアジア、アフリカ、中南米が含まれる南半球だ。今後、高い成長が期待される市場のことだけをもっぱら考える事業部として第2事業部が組織され、そのトップに技術出身の徳光氏が就いた。

 効果はすぐに現れた。ASEAN向けとして話題になったバッテリー内蔵の液晶テレビ「POWER TVシリーズ」である。アジア地域では放送波の届きにくい弱電界地域が多く存在するうえ、インドやベトナムの一部地域では電力供給が不安定で停電が頻発するエリアも多い。例えばインドでは、一日平均2時間も電気が切れるという。ブースターとバッテリーを内蔵したPOWER TVは、新興国向けの“切り札”と位置づけられている。

 徳光氏によると、POWER TVの開発スケジュールは、当初計画から半年も早めたという。従来の計画では11年の前半に登場する予定だったが、徳光氏が「とにかく早く作れ」と深谷工場の開発部隊にハッパをかけたそうだ。「私はPOWER TVの“POWER”に、さまざまな意味を込めています。電気や電波の力はもちろん、スピーカーやアンプも大きくして、音にも力を込めました」。POWER TVだけではなく、組織再編も半年早めた。

 徳光氏は、技術者らしい展望を持っている。「東芝は超解像技術の“レゾリューションプラス”が1つの売りになっていますが、国内製品の技術は、あくまで先進国向けのデジタル超解像です。私は、新興国向けのアナログ超解像をやってみたいと思います。まだアナログ放送が主流で、感度も低く、ノイズが多く、画はぼやけて見える。そのノイズをとり、色をキレイにしてユーザーに見てもらいたい。今、その開発のために部下にハッパをかけているところです」。

 これは面白い。こうした新興国向けの機能というのは、新興国限定ではもったいない。例えば内蔵バッテリーは、停電時以外にも役立つ。バッテリー駆動は信号変換に対する立ち上がりが良く、しかもAC電源と違ってノイズの少ないピュアな電源がとれる。その発想でテレビを作れば、さらに高画質なテレビができるのではないか。

 第1事業部で開発した先進国向け製品のエッセンスを第2事業部に持ってくるのが通常のモデルだが、しかし逆に第2事業部で作った機能が良い形で第1事業部にフィードバックできれば、先進国だけを見ていては出てこない発想でテレビを進化させることができるのではないか。それは、東芝のテレビ事業のトータルな発展にも寄与するはずだ。

 今回、発表会に出席して分かったのは、いわゆる「グローバル戦略」というのが間違いであるということだ。いまグローバル戦略が浸透して、全世界で共通の製品を売る方法が主流になっているが、実はそれぞれの市場特性を踏まえ、その中できちんとクオリティーを主張するものこそが、現地で受け入れられる。

 かつて「メイド・イン・ジャパン」が品質神話を作り出したように、今後は最高の日本クオリティーで新興国に進出する。「クオリティー・ジャパン」こそが、今後日本メーカーが歩むべき道ではないか。

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.