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「DEGジャパン・アワード」で見えた“Blu-ray Discの今”(前編)麻倉怜士のデジタル閻魔帳(2/2 ページ)

» 2011年02月24日 11時34分 公開
[芹澤隆徳,ITmedia]
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グランプリ 「アバター ブルーレイ版エクステンデッド・エディション」

——グランプリを受賞したのは、「アバター ブルーレイ版エクステンデッド・エディション」です。

実をいうと、個人的には現状でアバターをグランプリにしたくはありませんでした。というのは、現在市販されているアバターは2D版だからです。

「アバター ブルーレイ版エクステンデッド・エディション」

 ご存じの通り、アバターは当初から3Dを前提に作られた作品で、従来の3D作品にはない安定感やパースペクティブを持っています。市場に2D版しかない状況で評価することが果たして良いことなのか。しかも、米DEGが1月に発表したアワードでも、劇場公開された新作のジャンルで受賞しています。日本では、なるべく独自性を出したいと思っていたので、米国のアワードに追随したと思われることもしたくありませんでした。

 しかし、アバターは2Dでも立体感を感じることのできる優れた作品です。実は3D版でも視差はあまり使わず、2Dでも立体を感じる仕組みを積極的に取り入れました。例えば、小さいもののほうが小さく見える、手前のもののほうが速く動くといった自然の3D視メカニズムをうまく使い、典型的な3Dのテクニックに頼らずにどこまでできるかを試した作品。これがアバターの本質です。

 その結果、アバターは動きが激しいにも関わらず、安定して見ることのできる3D映画となりました。また、単に解像度が高いだけではなく、もとの情報量が多く、それをいかに減らさずに見せるかという点もポイントでした。エンコーディングにあたったパナソニックのハリウッド研究所(PHL)が圧倒的に強い部分です。2D版はMPEG-4 AVCのハイプロファイル、3DはMVCというコーデックを使用していますが、実はどちらも柏木さん(PHLの柏木吉一郎氏)がこだわって作ったものですから、強いはずですね。

 PHLでは、エンコードした映像を370インチの大スクリーンに表示して画質を追い込みます。もとの情報量をいかに落とさずにパッケージ化するかにこだわったエンコーディング。振り返ってみれば、昨年グランプリを受賞した「崖の上のポニョ」もPHLが担当していましたので、2年連続でPHLのエンコーディングがグランプリを受賞したことになります。やはり良い画を作る方法論が分かっている会社や優秀な人が常に良い結果を残す。DEGアワードも3回目を迎え、そうした事実が表面化してきたといえるかもしれません。

——BDの特性を生かせる作品や会社が増えるといいですね

DEGジャパンの塚越隆行会長

表彰式であいさつしたDEGジャパンの塚越隆行会長によると、2010年はDVDとBDを合わせて国内では前年比103%と微増したそうです。一方、欧米ではパッケージメディアがネット配信に押されて苦境に立たされています。例えば、大手配信事業者のNetflixには2000万人もの会員がいて、従来型パッケージ流通の最大手に匹敵する規模に成長しました。米国のパッケージ市場はまだDVDが中心で、映画会社も収益の5割程度をDVDに頼っています。そのDVDの売上は下がり、BDはそれをカバーするまでに育っていない状況。映画会社にとっては死活問題です。

 しかし日本は、2010年にBDが前年比2倍の出荷量を記録しました。海外がネット配信に移りつつある状況で、日本だけはパッケージ市場を維持しています。例えば、170万枚を販売したマイケル・ジャクソンの「THIS IS IT」は、その4割がBDだったそうです。これも予想を上回る数字です。

 良い作品であれば、安価なDVDよりも高品質のBDを買いたいというユーザービヘイビアが生まれます。作品が提供してくれる感動の時間を大切にするなら、やはりDVDよりもBDという認識も広がってきました。これには、DEGが過去3年間に展開してきた地道な普及活動も効いているでしょう。日本では、全ソフト市場に占めるBDの割合が米国よりも上です。これは誇るべきことでしょう。

 ソフトメーカーの努力も忘れてはいけません。THIS IS ITを販売したソニー・ピクチャーズ エンタテインメントは、従来の販売チャンネルだけでなく、積極的に新規販路を開拓しました。例えば郵便局に購入申し込み書を置き、そこで申し込むと「ゆうパック」で届くといった試みです。さまざまな努力により、BDはパッケージメディアとしてのステータスを上げてきていると感じました。

——後編では、「ベストBlu-ray 3D賞」「ベスト高画質賞」など各賞の受賞作を紹介します。また今月から新コーナーとして、AV分野にとらわれない「麻倉怜士のお気に入り」がスタート。ご期待ください。

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