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» 2011年07月04日 14時53分 UPDATE

本田雅一のTV Style:半導体至上主義の先を見据えた東芝“REGZA”(2)

「レグザエンジンCEVO」は、「メタブレイン・プロ」以来のコンセプトを引き継ぎ、より高いレベルを目指して足下を固め直したものだ。しかし、もう1つ、東芝が「CELL REGZA」で学び、レグザエンジンCEVOの設計に取り込んだことがある。

[本田雅一,ITmedia]

 前回触れたように、東芝は、「レグザエンジンCEVO」の基礎となるLSIを設計する上で、「CELL REGZA」に搭載していたパターン抽出型三次元NR(ノイズリダクション)とワイドエリア補完倍速処理LSIの機能をブラッシュアップした上で1つのLSIとし、内部の処理精度(ビット幅)を上げて微細信号がデジタル演算を繰り返す中で失われないようにした。さらに、エンハンス処理ではない、複数フレーム参照による超解像を組み合わせることで、画質のレベルが一段上がった。

ts_cevo03.jpg 3次元フレーム超解像技術のイメージ。前後のフレームを参照することで超解像のパラメーターを最適化する

 これらは従来コンセプトの延長線上にあるものだ。より高いレベルを目指して、いったん足下を固め直したと考えると分かりやすい。しかし、もう1つ東芝がCELL REGZAで学び、レグザエンジンCEVOの設計に取り込んだことがある。

 それは将来性という時間軸方向での進化と、ラインアップを構成する上で柔軟に性能を上積みできるようにエンジン全体、LSIそのものの設計を行うことだ。CELLレグザは発売後もソフトウェアで機能を拡張し、翌年になると周辺LSIの強化でさらに改良を加えた。CELLの上にアプリケーションを積み重ねることができたのは、能力面での余裕があったためだ。今、東芝が盛んに拡げようしようとしている”タイムシフトマシン”に関しても、エンドユーザーとコミュニケーションしながら、継続的に改良に努めてきて学んだことは多い。

 東芝がいうところの”タイムシフトマシン”、すなわち多数チャンネルを同時並行して録画しておき、放送時間帯にかかわらず自由に視聴するというスタイルの提案は、東芝がオリジナルというわけではない。実際に製品化した最初の例は、2005年のソニー“VAIO”「Xビデオステーション」(現在のノート型ではなく、かつて8チャンネル録画可能なアナログ放送をMPEG-2録画する製品)だった。余談だが、このときに多チャンネルを同時録画するための処理LSIとして採用され、ソニーの手が入って成熟したことにより成功したのが、日立などが採用している「XCode」だ。

 話が横にそれたが、東芝はデジタルとアナログ、放送種類の違いはあるにせよ、アイデアの基本は同じところから出発し、別の考え方で同じような機能を作った。Xビデオステーションが普及しにくかったのは、HDD単価やアナログ放送が終了に向かう中での逆風などもあったが、やはりテレビという一番身近な映像製品の中で使い方の提案がしにくかったことも大きかった。

 タイムシフトマシンと同様の機能を持つレコーダーというアイデアは当然出てくるだろうし、東芝も「レグザサーバー」の発売を予告している(機能の詳細は未公表)。しかし、レコーダーとは別に、”テレビの使い方を変える”ために、テレビの標準機能として導入しなければ、テレビ市場に変化をもたらすことはできない。

 レグザエンジンCEVOは、こうしたことを見据えて、画質が将来に渡って進化していけるように設計しただけでなく、機能、性能の面でも柔軟に拡張できるように設計されている。特定の目的で設計されたコンパニオン型のLSIで補強していくだけでなく、主要LSIを複数用いることで能力を高めやすいよう工夫されている。

 その一例が、地上デジタル6番組同時記録の「タイムシフトマシンCEVO」を搭載する「ZG2シリーズ」だ。ZG2シリーズでは、主要機能を受け持つLSIを2個用いている。2個プロセッサを使っても、なかなか2倍の仕事をこなせないのがコンピュータの世界だが、当初よりプロセッサの使い方によって能力に弾力性を持たせる考えが盛り込まれているため、きちんと有意な機能・性能の上積みができた。

ts_cevo01.jpgts_cevo02.jpg REGZA「55ZG2」と「タイムシフトマシンCEVO」の「過去番組表」。どの番組を選んでもすぐに再生が始まる

 単に”凄いLSIを作る”のは前世代の話。その時点で全力投球の半導体設計とする上に、将来あるいは上位・下位への展開を容易にするといったことまで考えて設計しているのが新しい世代だ。

 ZG2シリーズは2TバイトのHDDを内蔵(うち1.5Tバイトをタイムシフトマシンが占有)した上で、従来型モデルに対して+10万円程度の価格で推移しているようだ。CELL REGZAの例がなかったとしても、実現できる世界観からするとなかなかお買い得だと思うが、それを実現できたのも、レグザエンジンCEVOの企画をこのような形で練り込んであった東芝の作戦勝ちだった。

実は録画初心者にこそオススメのタイムシフトマシン

 タイムシフトマシンの価値は、この連載を読んでいる多くの読者に説明するまでもないとは思うが、実はテレビの録画機能にまったく興味を持っていない、最初から使いこなせないと思っている人にこそオススメだ。

 例えば、筆者は地デジ化に備えて録画機能を備えたテレビを母親に贈った。ところが、彼女はほとんど録画機能を使っていない。録画予約ができないわけではない。番組表から簡単にできるのは知っている。しかし、曜日を指定した繰り返し録画の方法が良く分からず、毎週のように録画しなおすのが面倒で、また削除方法も分からずに大量に番組が溜まっていくので使っていなかったのだ。

 しかし、そもそもタイムシフトマシンには録画という概念がない。これはレコーダーではなく、テレビ視聴者から時間的制約を取り払う、テレビの本質的な使い方を改善する機能だ。これを圧倒的に安価な価格帯に引き下げた功績は大きい。

 もっとも、レグザエンジンCEVOの設計は、さらにその先も見据えているようだ(以下、次回)。

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