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“麻倉式PCオーディオ”のススメ(前編)麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(2/3 ページ)

» 2011年07月22日 17時18分 公開
[芹澤隆徳,ITmedia]
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麻倉氏:どちらもPCを使うところは同じですが、USB DACなどを活用してPCをプレーヤーにするのがPCオーディオ。一方、PCで再生は行わず、HDDに蓄積した音楽データやNASに転送したデータをネットワークプレーヤーで再生するのがネットワークオーディオです。形は違いますが、CDより良い音を聞きたいという思いは同じですね。もう少しいいますと、ITの権化を音楽鑑賞に利用しようというのがPCオーディオ。CDプレーヤーと同じ形で、プロパーのオーディオ機器として、従来のオーディオ文化をネットワークの世界に継承しようというのがネットワークオーディオです。これはスコットランドのLINNが拓きました。

――この連載でも過去にCDやSACDの高音質化について何度か話題にしていますが、配信サービスの状況はいかがでしょう

麻倉氏:最近はSACDも元気で、例えばユニバーサル・オーディオではアナログマスターが見つかった過去の名演奏の音源を直接DSD化したという話題もあります。それは「カール・ベーム/ベルリン・フィルのブラームスの交響曲」です。話題になったフルトヴェングラーとのSACDはPCMマスターからDSD化していましたから、聞き比べると違いは明らかでしょう。

 しかし、SACDは再生機が少ないという事情もありますから、より手軽にハイレゾ音楽を入手しようと思えばネット配信になります。従来のCDが44.1kHz/16bitだったのに対し、96kHz/24bitや192kHz/24bitといった非常に周波数帯域が広い音楽ファイルの配信が行われ、誰でもダウンロードできる状況になりました。リニアPCMだけでなくDSDも配信に加わったというのが面白いです。

 主なサービスとしては、日本ではオンキヨーの「e-onkyo music」、クリプトンの「KRIPTON HQM STORE」、米国の「HDトラックス」、英国の「リン・レコーズ」が挙げられます。わたしはすべて会員になっていますが、各社とも非常に熱心で、毎日お知らせメールがたくさん届きますよ。

オンキヨーの「e-onkyo music」とクリプトンの「KRIPTON HQM STORE」

麻倉氏:トップアーティストのハイレゾ音源配信も増えてきました。例えばe-onkyo musicは4月からクイーンの「Greatest Hits」を96kHz/24bitで配信していますが、ずっと売上トップを走っています。HDトラックスでは、ポール・マッカートニーの楽曲をロスレス圧縮バージョンと非圧縮バージョンでラインアップしましています。コーデックもFLACやWMAロスレスなどさまざまで、コンテンツ的に豊かになっただけではなく、各種フォーマットによる音質の違いを比較できる点も面白いですね。突っ込んでいくと、よりマニアックに楽しめるでしょう。マルチチャンネル音源もクリプトンが配信を始めました。

 さて、このようにハイレゾ音源のコンテンツがそろってきたことにくわえ、PCオーディオの良いところは、手持ちのCDをリッピングしても並のCDプレーヤーより良い状態で聴くことができる点です。考えてみれば、CDプレーヤーは、RF信号からデジタル信号を抽出し、さらにアナログに直すといった手順で同時に再生しなければならないたいへんさがあり、どうしても不完全なところが残ってしまいます。しかしリッピングではエラーが起きても読み直しが可能ですから、同じCDでもリッピングしたほうが良い音が楽しめる可能性も高いのです。

 こうして新しい切り口のオーディオがいよいよ始まるわけですが、そこからが難しいことも取材を通じて分かってきました。単にPCに取り込み、USB DACで再生するなら、まったく音は良くありません。でも。さらにPCをオーディオ専用としてしつらえ音質的に優位な専用ケーブルなども使ってみると、実に大きな差があります。ここを面倒と考えるかどうかが、良い音質で楽しめるかどうかの分かれ道です。しっかり気を配って作ったPCで聴くと、信じられないほど違います。

――後編では、具体的なセッティングやTipsについて話を聞いていきます

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