大手メーカーの存在に目がいきがちなこの手の展示会だが、少し周囲を見渡してみると面白いトレンドが見えてくる。日本にいると国内家電メーカー、そして周辺国メーカー何社かと、日本国内進出を果たしているメーカーの話題が中心となるが、ここはドイツの展示会。欧州ならではのメーカーの製品が目に入ってくるからだ。
その1つがトルコの家電メーカー、Vestel。同社はTVやモニター製品、STB(セットトップボックス)など、主にTV周辺機器をカバーする。やはり同社もスマートテレビをリリースしており、ソーシャルネットワークにSkype、アプリ拡張、スマートフォン/タブレット連携など、およそ他の大手メーカーが推進していることは押さえている印象だ。だがVestelで最も筆者の興味をひいたのは「Android TV」だ。
動作プラットフォームがAndroid OSそのものになっており、Androidアプリやサービスがそのまま利用できる。ただしAndroid TVはTVそのものに組み込まれているのではなく、STBとして中継装置のようにTVと接続される形態となる。動作OSは、Android 2.2 Froyoで、今日リリースされているスマートフォン向けアプリのほとんどがほぼそのまま動作する。前回のリポートでも紹介したように、本家Googleの「Google TV」はアプリ拡張の部分の実装が遅れており、スマートフォン向けOSを導入したサードパーティー製品のほうが先にAndroidを使いこなしているのが面白い。将来的には本家Google TVのほうが最適化も行われて最先端のプラットフォームになると思われるが、このあたりのフットワークの軽さは大手家電メーカーにはないものだろう。
Vestelと同様の試みは、中国ブースで見かけたPangooというメーカーのスマートテレビ製品にも見られる。展示パネルの説明によれば、TVにAndroid OS(バージョンは2.2となっている)が搭載されており、AndroidアプリやWebブラウザといった仕組みがそのまま利用できるという。ちょうどブースの説明員の方がいなかったタイミングなので詳細を確認できなかったが(中国系の中小メーカーが集まっているブースでは、夕方を過ぎて人が減ってくると説明員のいないブースが多数あったり、会場内で遊び始めるブースの説明員がいたりと、かなりフリーダムな様子)、アプローチ的にはVestelのそれに近いものとみられる。
またAndroidの実装ではないようだが、中国のTCL-Thomsonブースではスマートテレビ上でGoogle ChromeやOperaが動作しており、これを使ったWebサーフィンやメニュー画面のデモが行われていた。もともとフランスメーカーだったThomsonは家電事業を中国のTCLに売却、以後TCLは欧州向けにはThomsonブランドを使って製品展開を行っているようだ。だがスマートテレビとしてデモが行われていた製品では、メニューやアプリの多くが中国国内をターゲットにしたものになっており、前回のリポートにあったハイアール(Haier)同様、中国を起点に開発した製品を欧州へと順次投入していくスタイルを採るようだ。
従来まで、スマートテレビを含めてこうしたサービス/ハードウェア連携を必要とする製品では、大手が自社ですべてのコンテンツからハードウェアまでを抱え込んで、セット商品としてリリースされる形態が一般的だった。だがオープンプラットフォームの時代となり、単体でネットワーク接続可能なデバイスの種類も増え、逆にTVベンダー各社からこれら新しいデバイスやサービスに対して歩み寄っていくトレンドがみられるようになった。それと同時に、優秀なソフトウェアやサービスが手軽に利用できるような環境が整備され、これまで高度な開発力や耐久力が必要だったスマートテレビのような高付加価値商品参入へのハードルが下がりつつある印象を受ける。そのため、今後メーカー各社はデバイスやサービスそのものでの訴求は難しくなり、使いやすいユーザーインタフェースにユニークなデバイス連携提案と、差別化のためのさまざまな戦略を模索する必要性に迫られるかもしれない。
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