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4K×2Kに舵をきるテレビとプロジェクター、IFA報告麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(2/3 ページ)

» 2011年09月25日 23時44分 公開
[芹澤隆徳,ITmedia]

 東芝は、CESの約束を果たしましたね。裸眼立体視に対応した「55LZ2」は、フルHDの4倍にあたる3840×2160ピクセル(4K×2K)の高解像度パネルにアダプティブなレンチキュラーレンズを組み合わせ、9視差の裸眼立体視を可能にしました。視聴者が複数の場合、その顔の位置を検出して位置に応じて3D映像を最適化する「フェイストラッキング機能」を持っていますが、その技術が洗練され、俊敏に追随できるようになったことに注目したいです。この半年間で、かなり精度が上がりました。立体映像の画質は、20V型のイメージをそのまま大きくした印象で、大画面なのだから、もっと頑張ってほしいです。むしろ私は、4K×2Kの2D画質に注目したいと思います。

東芝ブースでは3Dメガネを破壊するポスターも

――コンテンツのない状況で、4K×2Kを進める理由は何でしょう?

 それは、画面サイズとのバランスです。50V型くらいまではフルHDレベルでも高精細に感じますが、それ以上になりますと、もっと画素があったほうがいい。もちろんネイティブなコンテンツがないのは問題ですから、現状では超解像などしっかりしたアップコンバート技術を持つテレビメーカーが積極的ですね。東芝もその1社です。

 もう1社はシャープでした。今回、シャープはクローズドな商談スペースでI3(アイキューブド)研究所の「ICC」を採用した液晶ディスプレイを展示しました。小耳に挟んだところでは、実はあまりプッシュするつもりはなかったのに、地元のメディアがすっぱ抜いて、日本を含む海外メディアが追随したようです。シャープは、おそらくCEATEC JAPANに焦点を合わせていたのでしょう。

シャープはクローズドな商談スペースでICC搭載の4K×2K対応テレビを展示した

 実際に試聴して画期的だと思ったのは、I3研究所の説明会のとき以上に“テレビ対応”が進んだことです。以前は業務用の56型モニターを使っていましたが、今回は60V型のAQUOS。モニターと民生用テレビでは画作りが全く違いますが、ICCの精細感想像力は民生用テレビにとても合うものだと感じました。

左からフルHD素材そのまま、フルHD素材+従来型のアップコンバート、フルHD素材+ICC

 例えば民生用テレビではコントラストと精細感が重要ですね。見えなかったものが見えてくるとか、情報量が増えるといった印象を持ちますが、今回驚いたのは、奥行き方向の距離感まで見えてきたことです。鏡に室内が映っているデモ映像では、フルHD素材とそのアップコンバート映像はあまり変わりません。しかしICCを適用した映像では、明らかに鏡の中に奥行き的、立体的な空間が見えるのです。リアリティーの向上という点で見逃せない点です。

――製品化のスケジュールは未定と聞いていますが、完成度は高かったということでしょうか

 今年のシャープは、おそらくHDR(high dynamic range)がメインテーマになると思いますから、商品化は2012年以降になると思います。でも、完成度は高かったですね。ICCは既にLSI化されています。特にすごいと思ったのが高輪ブリンスホテルの桜と水の映像。水に映った桜の表情まで分かるのです。フルHDではなんとなく花びらが舞っているという印象なのに対し、ICCを適用すると、水に花びらが落ちるまでの軌跡が1枚1枚はっきりと分かりました。

 しかし、課題もあります。単に写実的というだけでは、たくさんあるコンテンツの中には適していないものもあるかもしれません。例えば絵画調の映像などは、リアリティーを徹底的に高めても対応できませんよね、誰かが映像に解釈を加えたものに対して、テレビがどこまで再創造できるのか。映画の中には監督の世界がありますが、その監督を知らずに画だけを最適化することができるかという問題です。

 以前紹介したように、ICCはソニーでDRC(Digital Riality Creation)を開発した近藤哲二郎氏が20年近くの研究成果として発表したものです。これからのテレビは単に情報量を増やすだけではなく、制作者の考えなりコンセプトなりを投影して、その世界観を含めて楽しめるものになるかもしれません。その中では、テレビそのものが持っている方向性や世界観も問われることになるでしょう。

――4K×2K関連でほかに気になる動きはありましたか?

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