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薄型テレビの音を改善するポストプロセッシング技術、DTSが開発中CEATEC JAPAN 2011

» 2011年10月13日 13時50分 公開
[芹澤隆徳ITmedia]

 AVファンの間でDTSといえば、「DTS-HD Master Audio」に代表されるサラウンドコーデックの会社として有名だが、最近ではPCやカーオーディオ向けのポストプロセッシング(事前の信号処理)でも存在感を示している。同社はさらに、薄型テレビやサウンドバーをターゲットにした技術も開発中だ。「CEATEC JAPAN 2011」に合わせ、近隣のホテルに設けられたdtsの商談スペースを訪ねた。

dts JapanがCEATEC会場近くのホテルに設けた展示・商談スペース。取材に応じてくれたのは、同社フィールド・アプリケーション・エンジニアの津村茂彦氏とマーケティング・マネージャーの伊藤哲志氏

 薄型テレビのスリム化や狭額化が進むにつれ、筐体(きょうたい)内でスピーカーに使用できるスペースは減り続けてきた。最近ではスピーカーユニットを下向きや後ろ向きに配置するケースもあり、ブラウン管時代よりもむしろ不利な条件で音を聞くことも多い。そこでDTSが考えたのは、テレビよりも条件がシビアなPC向けのポストプロセッシング技術を応用することだった。

 DTSのPC向け音響技術は、昨年のオンキヨー製品に続き、今年は富士通が第2世代の「DTS Ultra PC II Plus」を採用している。2chスピーカーでバーチャルサラウンドを実現する「DTS Surround Sensation」、聴覚的な音量レベルを向上させる「DTS Boost」、ソースごとの音量差を均一化する「DTS Symmetry」といった技術は第1世代から継承しつつ、低ビットレートの音源で失われる音を強調することで音質改善を図る「DTS Enhance」や、圧縮音源の情報を解析して失われた情報を復元する「DTS Audio Restoration」など4つの機能が新たに加わっている。

 DTS Ultra PC II Plusは、ノートPCの小さなスピーカーでもワイドで迫力のある音響を実現できるのが特長だ。例えば映画モードにすると、バーチャライザー(DTS Surround Sensation)とエンハンス(DTS Enhance)が働き、音場を画面正面に上げつつ、サラウンド感を持たせる。スピーカーのサイズに見合わないワイド感が面白い。

DTS Ultra PC II Plusに含まれる機能 概要
DTS Surround Sensation 2chスピーカーやヘッドフォンでバーチャルサラウンド
DTS Boost ノート PC の内蔵スピーカーの音響を最大限に高めることで、音量レベルを維持したまま、ひずみのないサウンドを提供
DTS Symmetry 検知された音量レベルのバランスをとることで、複数の音源の音量のばらつき を解決
DTS Clear Voice ノイズ抑制技術、アコースティック・エコー・キャンセレーション技術、ビー ム・フォーミング技術を組み合わせ、ハウリングを抑えながら、ノイズが多い環境でも高い指向性を実現するマイク用の技術
DTS Clear Audio 特定の周波数を高度に調整することで、ノイズの多い環境でもクリアな再生が行える
DTS Audio Restration 圧縮またはリマスターされた音声信号を分析し、圧縮によって失われた音の迫力や明瞭度を復元
DTS Enhance MP3やストリーミングコンテンツなどを利用する際、音色 の自然なバランスを高め、音声と楽曲のトーンを明るくし、より魅力的な低音・高音を実現

 すでにDTSでは、中国メーカーと薄型テレビにポストプロセッシング技術を導入することで合意しており、国内メーカーに対するアプローチも始めている。「日本の有望な市場を考えたとき、テレビは(アナログ停波後でも)まだ成長の余地がある。コスト競争の激しい薄型テレビでも、ここまで音が良くなるという試作機を作った」(伊藤氏)。

 試作機は、国内有名メーカーの市販品をベースにしたもの。多くのテレビと同じ条件にするため、画面の横にあったツィーターを外し、画面下のスピーカーだけを使用する。これにPCを接続し、DTS Ultra PC II Plusをテレビ向けにカスタマイズした処理を行う。具体的には、前述の5つの機能はすべて入っているという。

 実際の音を聞いたところ、両サイドのスピーカーを外しているにも関わらず、音場が画面中央にまで上がり、音もワイドに感じられた。スピーカーユニットの特性に合わせたチューニングは行われていなかったが、少なくともアンダースピーカー特有のデメリットはは解消されているといえそうだ。

 ただし、最近のテレビには下向きや後ろ向きにスピーカーを設定するといった、さらに条件の悪いケースもある。この点についてDTSでは、「現在はスピーカーがフロントファイアリング(前を向いている)を前提としたアルゴリズムになっている。CEATECの展示を通してテレビメーカー各社にニーズを聞き、本社やR&Dにフィードバックする」と話す。また、テレビに後付けするサウンドバー向けのアルゴリズムも開発しているという。

 いずれも具体的なスケジュールは明らかにされていないが、伊藤氏は「メーカーとは良い話し合いができている。できれば来年のCEATECで一歩先のプロダクトを披露したい」と話していた。

オンキヨーが試作したという「DTS Neo:X」11.1ch対応のAVアンプも試聴できた。市販品を改造したもので、外付けの2chパワーアンプを組み合わせてデモンストレーション

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