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時代が新しいデバイスを要求している――CES総括(後編)麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(2/3 ページ)

» 2012年01月30日 15時34分 公開
[芹澤隆徳,ITmedia]

麻倉氏:その音についてですが、北米ではテレビとは別体のスピーカー、とくにサウンドバーが流行ってきています。日本ではヤマハの「YSPシリーズ」などが有名ですが、画面の下に置いたり、壁掛けにしたりできる一体型のスピーカーです。CESに展示されたものの中では、アナログデバイセズの立体音響技術に注目したいと思います。

 これは、以前マランツの“CINEMARIUM”で使っていた「OPSODIS」(オプソーディス)の技術。もともと鹿島建設と英サザンプトン大学が開発した立体音響システムですが、マランツが撤退したあと、アナログ・デバイセズもライセンスを取得して「SHARC」チップに入れて売ろうとしています。これが出てくると、セットメーカーは立体音響の技術を容易に製品に取り込めることになります。

 もう1つ、コンテンツの動向として「UltraViolet」の現状にも触れておきたいと思います。UltraVioletは、購入した映像コンテンツをIDとひも付け、必要に応じて好きなデバイスで楽しめるというもの。ワーナーが昨年秋に対応Blue-ray Discを発売し、現在では20タイトルほどに増えました。

UltraViolet対応のBDでは、クラウドからスマートフォンやタブレット用の映像をダウンロードできる

 UltraViolet対応のBDでは、パッケージの中の紙に印刷してある番号を使ってネット登録を行います。するとクラウドサービスの中に自分のページができ、そこからスマートフォンやタブレットに最適化された映像をダウンロードできます。従来はBDプレーヤーがなければ、その映画を観ることはできなかったのですが、出先でも楽しめるようになったわけです。

 今年もCESの後にハリウッドのスタジオをいくつか取材してきましたが、どこもUltraVioletの話題で持ちきりでした。ユーザーはディスクを購入することに対して安心感を得られますし、販売する側はクラウドベースでユーザー管理も可能になります。今後が楽しみな技術の1つでしょう。

4K2Kに有機EL、新しいテレビのトレンド

――4K2Kでは何かトピックはありましたか?

麻倉氏:まず、ソニーが4Kプロジェクター(国内ではVPL-VW1000ES)のシアターを作り、4K2Kのデモンストレーションを行いました。東芝は、国内同様、4Kテレビ(国内では55X3)を、裸眼3Dメインではなく「スーパーレゾリューション」をうたっていました。また韓国メーカーでは、サムスンが70V型の4Kディスプレイを、またLGは74V型で3D表示に対応した4Kテレビを出品しています。

 LGの「CINEMA 3D」は、偏光メガネ方式のため、垂直方向の解像度が半分になってしまい、去年の段階のものは画質があまりよくありませんでした。しかし今年の展示機は解像度の低下が少なく、とてもキレイだったのです。担当者に聞いてみたところ、「去年は2Kコンテンツのアップコンバート素材をデモに使っていたが、今年はネイティブ4K2Kコンテンツに変えた」そうです。確かにCINEMA 3Dもここまでキレイになれば市場に受け入れられると思いますが、いかんせん4Kの3Dコンテンツは市場に存在しませんから、やはり疑問も感じますね。

LG電子の「CINEMA 3D」は偏光メガネ方式(左)。シャープの「4K+ICC」デモは新しいコンテンツを上映した(右)

 一方、素晴らしい画質を見せてくれたのが、シャープの「4K+ICC」です。今回のCESでは、昨年の「CEATEC JAPAN」にはなかった上高地と芦ノ湖の映像を見ることができました。上高地のほうは、おそらく秋の初めと終わりに撮影したのでしょう。画面から空気の暖かさと冷たさが伝わってくるようでした。例えば、雪をかぶった山は、すごく寒そうに見えるのです。

 芦ノ湖の映像には3隻の船が映っていましたが、手前にある船と奥の船では、湖にできる波紋(軌跡)が全く違ってみえました。これは距離による見え方の違い。人間は、視覚情報をもとに頭の中で距離を判断することができます。つまり、見る人が距離感までつかめる画質だったということです。

――韓国メーカーの有機ELはいかがでしたか?

麻倉氏:サムスンとLGは事前に告知したため、どちらも発表会にはすごい人数のプレスが集まって大人気でした。ただ、発表した有機ELパネルには違いがあります。サムスンはRGBの有機EL素子を使っていますが、LGは白色の有機ELにカラーフィルターを組み合わせたもの。RGBに白のサブピクセルを加えています。

LG(左)とサムスン(右)の有機ELテレビ発表会。事前情報もあり、報道陣が殺到した

 両者を比較すると、作り方の違いによるのか、色の美しさではサムスンのほうが上です。対してLGの方式は、大型化が容易になる点がメリット。マザーガラスそのままのサイズとなる95型まで作れるそうです。ただ、展示機の画質は、どちらも色は鮮やかですが階調性はいまひとつでしたね。

――ソニーの「Crystal LED Display」はいかがでしたか?

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