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放送の明日が分かる “麻倉的”NHK技研公開の展示ベスト5(前編)麻倉怜士のデジタル閻魔帳(2/2 ページ)

» 2012年05月25日 16時04分 公開
[芹澤隆徳,ITmedia]
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第5位:インテグラル立体テレビ

麻倉氏:インテグラル方式は、空間像再生型の裸眼立体視技術です。微小なレンズで構成されたレンズアレーを撮影と表示の両方に用いて立体像を再現します。専用のメガネが不要で、見る位置が中心からずれても、位置に応じた自然な立体像を見ることができます。

多視点映像から生成したインテグラル立体像

 展示も初期は画素が粗く、画面も小さかったので、いつ実用化できるのかと心配していましたが、毎年着実に進化を続けているのは評価したいです。昨年の展示と比べ、撮影時のレンズアレー配置や投写システムの改善によって奥行き方向の解像度特性を向上させました。数年前に比べると、格段に違う自然な立体感が得られるようになっています。

 ただ、この記事を読んで、期待して見に行くとガッカリするかもしれません。解像度はまだまだ低いですし、相撲のコンテンツを見ると力士は立体的に見えますが、土俵かなりぼけていました。

 最近のテレビメーカーを見ると、3Dテレビに対する一時の熱気は冷めているようです。現在は沈静化して、単なる一機能になっていますね。もちろんメーカーは目先の利害で商品開発が左右されますから仕方のない面もありますが、NHKがすごいのは20年後という将来を見据えて研究を続けていることでしょう。

 例えば現行ハイビジョンも実用化の20年前(1980年頃)は、あまりキレイではありませんでした。ですからインテグラル立体テレビもここ数年の進化ぶりを見ていると、20年あれば「なんとかなるだろう」と思わせるのです。基礎研究に時間をかけることで、明るく解像度の高いものを目指せると思います。今後がたいへん楽しみな技術の1つですね。

第4位:興味度推定技術を応用した番組推薦システム

麻倉氏:これは、視聴した番組に対する「興味度」を推定し、視聴者がより満足できる番組に出会えるように推薦してくれる技術です。昨年、「UTAN」(User Technology Assisted Navigation)という可愛い名前で展示していたものですが、今年はとくに愛称はないようですね。

興味度推定技術の概要

 現在は地上/BS/CS110度に加えてスカパー!HDなどもある多チャンネル時代。さらに放送だけでなく、ネットワーク経由のコンテンツも増えています。何を見るかは視聴者が決めることですが、好みの番組を見逃しているとしたら、もったいないことです。番組推薦技術は、これから非常に重要になってくるでしょう。

 では、どうやって視聴者の興味度を測るのでしょうか。個々の番組に対していちいち視聴者がいちいち点数を付けるのは難しいので、テレビに装着したセンサーカメラで視聴者を捉え、その動きから推定するのです。

 例えば、番組放送中なのに横を向いて話をしていたら興味は薄いと判断できます。下を見て携帯電話やタブレットをいじっていたら、やはり興味は薄いでしょう。逆に、身動きもせずに画面をじっと見ていたら、嗜好に合った番組だと判断できます。これをリアルタイムに推定し、データベース化しておくことで、今後放送される番組の中から類似するものをユーザーに勧めてくれるという仕組みです。オススメ番組だけを集めたEPG(電子番組表)なども作ってくれるそうです。

カメラで顔の向きを追い、興味度を推定する。例えば、身動きもせずに画面をじっと見ていたら、嗜好に合った番組だと判断できる

 シャープのAQUOSにも「おすすめ番組表」が搭載されていますが、現時点では番組ジャンルや特定のキーワードが入っている番組を推定しています。対して技研の研究は、パーソナルな反応まで見ているところがすごいのです。

 HybridCastにも似た機能があります。リモコンでの操作に記録機能があり、使用された時間とチャンネルを記録していきます。その履歴をもとに、オススメ番組を画面下に表示して推薦するというもの。共通しているのは、ユーザーの入力を必要とせず、履歴情報を取得できることですね。

 こうした技術は、テレビ局側の「見てほしい」という意向とユーザーの「見たいもの」をマッチングするシステムです。番組視聴機会を増やし、見逃し防止にもなるという意味で、とても期待できる技術だと思います。

――後編では、第3位からカウントダウンしていきます

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