ITmedia NEWS >

音が変わった! 2012年はAVアンプの当たり年(後編)麻倉怜士のデジタル閻魔帳(2/3 ページ)

» 2012年07月04日 13時58分 公開
[芹澤隆徳,ITmedia]

デジタルアンプの素子を変えたパイオニア

麻倉氏:次はパイオニアです。パイオニアは、昨年発売した「SC-LX85」が圧倒的な高音質アンプと評価され、最近では各所でリファレンス的な扱いをされています。先日、スタジオジブリに取材に行ったのですが、MAルームにSC-LX85が置かれ、しっかりとした音を出していました。

 SC-LX85の音が良かった理由は、デジタルアンプの素子を変えたことです。それまでのICE POWERに変え、SC-LX85からは米IR(インターナショナル・レクティファイアー)の素子になりました。パイオニアでは「Direct Power FET」と呼びますが、「考え方がシンプルで、ストレートにデジタルの良さが出る」と話していました。昨年の「デジタルベスト10」にも入りましたね。

パイオニア「SC-LX56」。17万5000円で7月中旬発売

 この春に出た「SC-LX56」は17万5000円とSC-LX85の半額ですが、先代の「VSA-LX55」に比べてかなり音が良くなり、とても感心しました。IRの素子をうまく使いこなして、音の立ち上がり感や緻密(ちみつ)さにレベルの高さを感じます。「AVアンプでここまでくるか?」と思いました。

 ある意味では上位モデルのSC-LX85を彷彿させる音で、むしろSC-LX56のほうが上回っている部分も見受けられます。確かに、SC-LX85が登場してから半年以上の時間が経過していますから、その間に得たノウハウを入れたのでしょう。例えば、細かいたたずまいの表現などに進歩の跡が見られました。非常にお買い得なモデルだと思います。

 また、パイオニア独自の「オートフェイズコントロール」にも注目したいです。Blu-ray DiscのLFE――つまり0.1ch分がメインに比してどうしても遅れてしまうという現象があります。制作(ミキシング)時に、生じるものなのですが、その位相差をなくす技術です。従来のフェイズコントロールも効果は高かったのですが、いかんせん手動だったので使いにくかった。今年からオートとなり、圧倒的に効果を感じることができるようになりました。オフのときと比較すると、低音の切れ味やスピード感が異なるのですが、より面白いのは中高域も良くなることでしょう。かつてスーパーウーファーを2chシステムに追加すると中高域の見晴らしも良くなるという現象が話題になりましたが、それに似ています。

 パイオニアの新製品も機能満載です。それだけでなく、ベースの音質を大きく変えてきたことが大きいでしょう。

YPAOを進化させたヤマハ、2chにもこだわったソニー

ヤマハ「RX-V773」は9万2400円。6月下旬から販売している

 ヤマハの「RX-V773」は定価9万2400円と、これまでに取り上げた製品より、さらに低価格なAVアンプです。しかし、とても良い音がしていました。ベテランエンジニアが手がけ、音設計の持ち味を生かした製品に仕上がっています。ボーカルは上凌駕多く、ベースもは弾力性を感じます。ピアノの響きもとても心地いい。

 もう1つ、ヤマハは面白いテクニックを新製品に盛り込みました。それは、自動音場補正機能「YPAO」の強化です。新しい「YPAO-R.S.C.」(Reflected Sound Control)は、部屋が持つ固有の初期反射音をより積極的に制御するように改良しています。これが非常に効く。あり/なしで聞き比べると、音から感じ取れる“質感”が大きく変わります。しっとり感が増し、潤いが増えた、音の流れもしなやかになった印象でした。

ソニーが昨年末に発売した「TA-DA5700ES」。希望小売価格は27万3000円

 ソニーはこの春、エントリーモデルを除いて新製品を出していません。しかし、昨年発売した「TA-DA5700ES」をはじめ、過去10年に渡って2ch再生にもこだわった音作りをしています。それが高く評価されており、音のクオリティーではずっと業界のトップを占めています。実際、純粋な意味の音の良さでは、ソニーがダントツに良かったと思います。

 この春、各社が音のレベルを格段に上げてきたので、ソニーの領域にかなり近づきました。でも、他社がハイレゾ音源に対応するために2ch再生を重視し始めたのに対し、ソニーはずっと以前から取り組んできただけあって、まだ一日の長がありますね。今年の秋、ソニーが送り出す製品はどうなるのか? 他社製品の進歩も著しいので、さらに楽しみになりました。

 AVアンプは、「機能は充実しているのに音質が惜しい」と言われてきましたが、この夏の新製品は、その悪評をかなり払しょくできたと思います。しかし、まだ2chアンプに及ばないのも事実。さらに高みを目指してほしいと思います。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.