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LINNの「DSMシリーズ」がホームシアターの音を変える?麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(2/3 ページ)

» 2012年08月18日 14時52分 公開
[芹澤隆徳,ITmedia]
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 先日、ビックカメラ川崎店でDSMシリーズの試聴イベントを行ったのですが、普段の倍くらいの人が来ました。そのとき、実験として米OPPOのユニバーサルプレーヤーからHDMI経由でDSMに入れた音と、HDMI経由で他社のAVアンプに入れた音、同軸デジタル入力でDSMに入れた音を比較しましたが、圧倒的にHDMI入力が良かったです。HDMI特有のくもりがなく、非常に晴れやかで伸びが良く、情報量も多い。もう1つアナログ入力も試しましたが、CDの場合はHDMI入力のほうが良好でした。

「KLIMAX DSM」の背面端子。HDMI入力は3系統で、HDMIのパススルー出力も用意している

 もう1つのエピソードを書くと、私が最近もっとも驚いたのが、かねてから愛視/愛聴し続けてきたBD-REディスク、松田聖子の「音楽・夢クラブ」をHDMI経由のDSMで聴くと、実はこれ程までに凄いものだったのかと初めて分かったことでした。このディスクはイベントで数百回は再生したものですが、これほどの声のクオリティーを聴いたのは初めてでした。しなやかで、緻密(ちみつ)で、豊潤な松田聖子の質感。それがLINNのDSMとAVアンプを連結したシステムの音でした。DSMはこれほどクオリティーそのものをレイズアップするのかと、改めて驚いた次第です。

HDMIは“最高の入力インタフェース”になり得る

麻倉氏:HDMIも当初は音のキレやレスポンスが悪く、Blu-ray Discが出てきた2006〜2008年あたりはフルHDの映像に対してどうしても見劣りすると感じてしまうことが多かったです。リニアPCMも2chなら同軸デジタルで伝送できるわけですが、マルチチャンネルになるとHDMIが前提なので、違和感を抱きながら使っている状況でした。

 しかし、2008年にパイオニアが「SC-LX81」で音声と映像を分けて出力できる「HDMIデュアル出力」を初めて実用化し、HDMIの音は一段向上します。ソニーも同時期にBlu-ray Discレコーダーで2系統出力に対応し、その後はパナソニックなど各社のハイエンド機が追随。現在では高級機の常識になっています。一方、パイオニアのPQLSのように、プレーヤーとアンプの間でジッターレス伝送を可能にする技術も登場していますが、こちらは対応する機器同士に限られるため一般化していません。

2008年に登場したパイオニア「SC-LX81」。音声と映像を分けて出力できる「HDMIデュアル出力」を初めて実用化した

 このようにHDMIの音質は徐々に改善が進んできましたが、DSMシリーズはHDMI機器の全く新しい概念を作り出しました。それは、“エクスキューズなし”でHDMIの最高の音質を楽しめるようになったこと。HDMIが“最高の入力インタフェース”になり得る、と示したのです。

――LINNは、HDMI入力の音を改善するために、どのような工夫をしたのでしょう

麻倉氏:あまり公表はされていませんが、LINNに聞くとそれなりに理由があるようですね。まずは「DSシリーズで培った技術やノウハウを導入していること」。DSはネットワーク経由でNASなどに保存した音源を聴くシステムで、いってみればネットワーク系DAC(デジタル/アナログコンバーター)です。D/A変換の部分でさまざまな工夫をしており、ハイレゾ音源はもちろん、CDをリッピングしたソースであってもCDプレーヤーより音が良いという定評を得ています。

 44.1kHzから384kHzへの8倍オーバーサンプリングと35bitへのビット拡張も大きなポイント。その後、24bitに変換してDACに入ります。もちろん、単にアップサンプリングすれば良くなるわけではありませんが、そこにはLINNの長年の音作りのノウハウが入っているのだと思います。もちろんHDMI入力でもアップサンプリングは働きます。

 回路設計の面でも、DSシリーズの開発で培ったアイソレーション(isolation:分離)が生きています。1つの筐体(きょうたい)の中でアナログ部とデジタル部、電源部を完ぺきにセパレートし、ピュアな信号伝送を可能にしました。中でも「KLIMAX DSM」では6層のボードが完全に独立し、電源のアースラインまで分離しています。

 さらにDSMシリーズでは、「2ステージ・クロックリカバリー・プロセス」という処理を採用しているそうですね。これは、受け取ったHDMI信号を映像と音声に分離したのち、新たにクロックを与えることでジッターを低レベルに落とします。つまり、先ほど挙げたようなプレーヤー側で信号をセパレートをする機能が必要ありません。音声と映像が同居したHDMI信号であっても、DSMシリーズの中で適切に分離してくれることになります。もっとも、詳細は非公開で特許も取得していないそうです。なぜなら、特許を取得すると技術内容が公開されてしまうから。

 もう1つ、HDMI接続時に混入するノイズ対策として、各入力端子に専用のフィルターを設けています。LINNの販売店向け資料では「巧妙なフィルター」と表現していますが、やはり詳細は公表していません。さらに資料には、「市場にあるHDMI再生機では、このような対策を施してはいません」とまで書いています。

 前回、ここにきてAVアンプの音が良くなったと言いましたが、その理由は2chアンプの手法やノウハウを採り入れたことでした。確かに今年の製品は飛躍的に音が良くなっていますが、HDMIまわりに特別の配慮はありません。前述のビックカメラのイベントでもAVアンプの音とDSMをDACとして使った音を比較しましたが、やはりDSMのほうが圧倒的に良い結果でした。

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