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テレビはもう、次のフェーズへ IFA総括麻倉怜士のデジタル閻魔帳(3/4 ページ)

» 2012年09月26日 13時19分 公開
[芹澤隆徳,ITmedia]

――LGのCinema 3Dは偏光方式のため、解像度が半分になってしまいます

麻倉氏:そうです。私は2011年のInternational CESで最初にLGのCinema 3Dを見たのですが、当時は非常に画質が悪い印象でした。しかし、今年は4Kパネルを使って画質がかなり上がっていたのに驚きました。話を聞いてみると、2Kのコンテンツを4Kにアップコンバートした上で偏光フィルターで見せていた。つまり、あらかじめ倍の解像度にしておくと、3Dで解像度が半分になってもフルHD並みというわけです。4Kパネルを使えば、偏光方式でも3Dはかなりの高画質になるはずです。面白い展開が期待できそうですね。

実は第2世代に進化していたICC

麻倉氏:今回のIFAで一番すごいと感じたのは、シャープと3(アイキューブド)研究所のICCテレビです。ICCテレビといえば、昨年は公開するつもりが全くなかったのに、地元新聞にすっぱ抜かれて公開に踏み切ったという経緯があります。しかし、今回はしっかりと一般用のブースを表に出し、流通やプレス向けのスイートも用意していました。

 実は、今回の展示機に入っていたのは第2世代のICCです。I3(アイキューブド)研究所代表取締役の近藤哲二郎さんによると、当初は、もう少し早い時期の商品化を考えていたのですが、シャープがパネルを最適化するのに時間がかかり、テレビとしての出荷が遅れたということです。その結果、ICCのバージョン2ができて、ICCテレビの立ち上げ時から導入されることになりました。

 近藤さんとの付き合いは、1998年の初代DRCの頃からですから、もう15年ほどになります。DRCは“デジタル・リアリティ・クリエーション”の略、ICCも“光クリエーション”で、どちらも「クリエーション」の技術です。実際にどのような処理を行っているのか、論理的な部分は相変わらず謎ですし、近藤さんに聞いても答えてくれません。ただ、今回の展示を見て、ICCの効果については明確なイメージが得られたと思います。

ICC-LED TVのデモンストレーション

 ICCの処理は、超解像処理というより、むしろ“光処理”といったほうが良いものです。光があたった物体がどのように反射し、全体のパースペクティブの中でどのような位置にいるかを論理的に計算し、表示する画像を最適なデータで置き換える。すると目の前で実際の反射光を見ているような映像になります。

 私は初期からICCの映像を見ていますが、やはり革命的ですね。ディティールの再現性が上がり、非常に細かいところまで表現されます。一番の効果は、登場人物や背景の前後関係が分かることでしょう。以前は平面的だった部分が、今回は立体的に見えました。

 例えば上高地で撮影された猿の映像(フルHD)は、従来のアルゴリズムでは精細感は高いものの、見え方としては平面的でした。しかし今回は、手前にある木の幹と中間にいる猿、そして奥の白樺の木という位置関係がはっきりと分かる自然な奥行き感があるのです。さらにいえるのは、それぞれが立体感を持っていること。1つ1つの物体にラウンド感が出てきて、猿の毛がふさふさしている感じもはっきり分かりました。

 それから、以前は室内で撮影された映像を多くデモに使用していましたが、今年のInternational CESから芦ノ湖の映像を見せるようになりました。今回のIFAも同じ場所で撮影された映像でしたが、より広角で撮影したもの。それも非常にディティールが出ていて、また2Dにもかかわらず、3Dのように見えるほど、自然な立体感を持っています。広角の中で奥行き感が作れるようになったのが、アルゴリズムの進化でしょう。

 今回は大きな発見をしました。例えばソニーは4Kテレビのデモにαで撮影した静止画を使っていて、精密な映像を見せてくれました。しかしICCで見る映像には、静止画にはない濃密な空気感があります。それは、やはり動画だからではないでしょうか。動画は、1秒間に60枚の静止画を重ねます。微小な空気の変化は1枚1枚に刻み込まれます。つまり同じ時間の中で、60倍の情報が目に入ることになります。だからICCが描き出す動画映像は、中に飛び込みたくなるほどのリアリティーを持っていました。

ソニーの4Kテレビにαで撮影した写真を表示しているところ

 もう1つ面白かったのは、シャープの技術者が近藤さんの厳しい要求に、いかに応えるかと四苦八苦していたことです。テレビというのは通常、中央にフォーカスをおいて他の場所はボケているもの。しかし近藤さんは人の目で見える映像――つまり全画面均一のフォーカスや色特性が大事といって、それをテレビで再現しようとしています。ICCテレビはバックライトでローカルディミングを行っているのですが、それは黒を沈めるためではなく、なんと液晶パネルが持つ個々のムラをなくすためだそうです。大変なことをやっているのですね。

 まもなく「CEATEC JAPAN 2012」が始まります。当然、ソニー、東芝、シャープはIFAで披露した新製品を展示するはず。ぜひ幕張に足を運び、最新の4Kテレビを体験しましょう。

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