ポール・マッカートニーが楽器を持たず、リラックスして唄に専念したCDアルバムとBDを、このAVアンプで視聴してみた。元ビートルズのベーシストであり、彼らが歌った楽曲の大半はポールとジョンが紡ぎ出している。ハンブルグ演奏時代にスチュワート・サトクリフが抜けてからポールがベーシストへ転向した話はよく知られているが、ビートルズ解散後、彼がリリースした初のソロアルバム「マッカートニー」では総ての楽器を一人でこなしているように、この人はギターもピアノもドラムもプレイできる。手ぶらでの収録は、心底歌うことを楽しみたかったからだろう。
ポールは過去にもロックン・ロールのカバーやオーケストラと競演したクラシックの楽曲も残しているが、その頃から幼少時にジャズ・ミュージシャンだった父の弾くピアノに合わせて歌った、スタンダードな曲を吹き込みたいと密かに練っていたようだ。ところがロッド・スチュワートが同じようなアルバムをリリースしてしまったので、真似たと思われるのがシャクで機を伺っていたのだという。
CDアルバム「キス・オン・ザ・ボトム」は2011年にハリウッドのキャピトル・レコード、ニューヨークのアバター・スタジオ、そしてアディショナルのストリングス・セクションをロンドンのアビーロード・スタジオで収録しミックスをキャピトル・レコードで行った。エンジニアはアル・シュミット、マスタリングはダグラス・サックスという黄金の布陣。そしてこのCDは2012年2月8日にリリースされるが、その発売を記念して翌9日にキャピトル・レコードのAスタジオでライブ収録されたものがBlu-ray Disc「ライヴ・キス2012」として発売されたのである。
関係者を招いてのスタジオ・ライブなので臨場感もあるが、なんと言っても“一発録り”がCDとは大きく異なる点だ。エンジニアは同じくアル・シュミット。3曲目の「イッツ・オンリー・ア・ペーパー・ムーン」の冒頭のカットにスチューダーのテープレコーダー「A-80」が登場することからも、プロツールスによるデジタル録音のほかにアナログによる収録もなされているようだ。
バックを務めるのは、皆さんも良くご存知のダイアナ・クラール=ピアノ、ジョン・ピザレリ=ギター、に加えてCDではゲストとしてエリック・クラプトンやスティービー・ワンダーが参加している。
CDは14曲、BDは15曲構成。内容はほぼ同じだが、BDはシナトラも歌ったラブソング「マイ・ワン・アンド・オンリー・ラブ」が加えられている。もっともぼくが買った英国盤のCDにはさらにもう一曲「ベイビーズ・リクエスト」がプラスされているから、気になる人はこちらも要チェックですね。
国内盤のCDはSHM仕様、英国盤は通常盤なのに違うんですね音が。英国盤の方がきらびやかで響きが豊か。国内盤は軽快で安定感がある。BDは48KHz/24bitのリニアPCMの2ch音声と48kHz/24bitのDTS HD-MAの5.1chが収録されている。ともに音質は良好。CDより厚みがありポールのボーカルもふくよかだが、5.1chの方がひとつひとつの楽器の音色や演奏者のニュアンスをていねいに描き出す。
さて、「STR-DN1040」で5.1チャンネル再生を行うと、まさにゲストとしてスタジオに招かれた感じが味わえる。この価格のAVアンプとしては申し分のないニュアンスの再現力だ。映像はモノクロの演奏シーンとカラーのインタビューが入り混じる編集がなされているが、AVアンプ経由でもS/N感が高く、コントラスト感も申し分ない。BD版のバックはCDと異なるメンバーが演奏しているので、そうした部分も楽しめる。
バレンタインの日に書き下ろしたというオリジナル曲「マイ・バレンタイン」では、クラプトンに代わってジョー・ウォルシュがギターで参加するなど、BDならではの発見があるから、すでにCDを聴きこんでいる人は観てのお楽しみです。
それにしても、こんなAVアンプが出てくると上位モデルもおちおちしていられません。
オーディオ・ビジュアル評論家・音響監督。オーディオ・ビジュアル専門誌をはじめ情報誌、音楽誌など幅広い執筆活動を行う一方、音響監督として劇場公開映画やCDソフトの制作・演出にも携わる。ハリウッドの映画関係者との親交も深く制作現場の情報にも詳しい。またイベントでのていねいで分かりやすいトークとユーザーとのコミュニケーションを大切にする姿勢が多くのファンの支持を得ている。
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