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パッケージメディアの逆襲(前編)麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(3/3 ページ)

» 2013年08月23日 14時00分 公開
[芹澤隆徳,ITmedia]
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オープンリールまで? あらゆるメディアを比較試聴できる「ジ・アース」

 パッケージメディアとして、面白いものを2つ紹介しましょう。

 まず、キュー・テックが発売する「THE EARTH」(ジ・アース)です。同社は、映像編集やマスタリングを請け負うプロダクションだとして有名ですが、非常にクオリティーコンシャスな集団です。独自の技術でマスタリング工程の音質劣化を改善するシステム「FORS」プロセスを高音質ブランドとして提案し、これまでにも黒澤作品や小澤征爾さん指揮の音楽BDタイトルに採用されています。

 THE EARTHは、もともと同社のBD映像チェックディスクに入っていた楽曲をFORSプロセスでパッケージ化したもの。面白いのは、ガラスCD、HQCD、SHM-SACD(シングルレイヤー)、BDオーディオ、100% Pure LP、そしてCDという、現在考え得るすべてのメディアで同じタイトルを作り、セットで販売すること(ガラスCDは単品販売)。つまり、各メディアの持つ再生能力、再生音調を聴き比べるための「オーディオリファレンスディスクセット」です。

「THE EARTH」(QADS-1001)

――面白い試みですね

 ここまでそろえたのは史上初だと思います。さらに面白いのは、オープンリールの2トラック38センチ(ツートラサンパチ)、2トラック76センチも用意します。ツートラサンパチというのは、昔の録音マニアが憧れたシステムで、レコード会社が使っていたのが2トラック76センチ。オープンリールは今も静かなブームになっていて、米国の「International CES」に行くと必ずオープンリールのショップが出展しているほどです。それにしても、ツートラサンパチはまだ分かりますが、2トラック76センチには驚きです。同社に話を聞くと、かつての名機、STUDER(スチューダー)の「A-820」などを現役で使用しているマニアの方が日本にも何人かいるそうです。

「THE EARTH」(2TR オープンリールミュージックテープ QAT-1001)

 収録された楽曲は、若手作曲家ではナンバーワンとの呼び声が高い山下康介氏オリジナルの交響詩、THE EARTH。「序曲」から始まり「目覚め」「鼓動」「進化」「奇跡」「祈り」「終曲」と7部構成、ドラマティックな大編成オーケストラ作品です。例えば、序曲はこのうよな構成だ。勇壮なホルンのテーマで開始、次に弦や木管がテーマを優く紡ぎ、再び、金管がテーマを奏でます。中間部では弦と木管がアルベジオでテーマを変奏。次に全奏、弦部、金管、全奏と続き、壮大に終わります。96kHz/24bitで録音され、マイクセッティング、収音、ミキシングには、細心の注意が払われました。

 もともと音質チェック用に製作された楽曲であり、超低域から高域までの帯域の広さ、Dレンジ感、ピアノソロでの繊細さ、「奇跡」の女性ヴォーカル(歌はオーストラリアのシンガー、DONNA BURKE)での音像定位、声のニュアンス感の表現……などその装置の実力を測るポイントは多いのです。

 さすがにオープンリールを聴く機会はありませんでしたが、ほかのディスクメディアは聴き比べることができました。CDと高音質CDを比べると解像感が上がり、音の先鋭度も増すといった違いはありますが、根本的なフォーマットが異なるSACDはその上をいきます。また、BDオーディオの音も素晴らしい。これらの“ハイレゾディスクメディア”では、より鮮烈さと解像感があり、音の立ち上がり/立ち下がりも良好でした。さらに凄かったのが、100% Pure LP。大元はデジタルなのにアナログらしい音のしなやかさもあり、素晴らしいものでした。ディスクそのものの個性を再確認できました。その個性を愛でるという楽しみ方もありますね。

――アナログレコードは条件が良いと本当に良い音になるのですね

 もう1つ紹介したいのが、NKB(指揮者・北村憲昭氏の団体)が制作し、高音質音源制作会社アイ・クオリアがプロデュース、キングインターナショナルがディストリビュートするパッケージメディア、「ストラヴィンスキー 『火の鳥』・チャイコフスキー『ロメオとジュリエット』」です。同じ曲目でのリニアPCMとワンビットを収めた、ハイブリッドSACD+DVD-ROM 2枚組のシリーズの第3弾です。2013月2月にワルシャワで録音し、ミキシングはわが国を代表するエンジニアの村上輝生氏です。録音はDSD 5.6MHz。

「ストラヴィンスキー 『火の鳥』・チャイコフスキー『ロメオとジュリエット』」のSACD+DVD-ROM版。価格は5250円で9月8日発売(左)。SACD単体も同時に販売する予定。価格は3150円(右)

 ストラヴィンスキー・バレエ組曲「火の鳥」、チャイコフスキー・幻想的序曲「ロメオとジュリエット」、チャイコフスキー・ポロネーズの3曲が収録されていますが、デジタル的に言って実に豪華です。特にDVD-ROM。WAVデータ(192kHz/24bit)およびWSDデータ(2.8MHz/1bit)で、全曲が聴け、さらにワンポイントマイクによる収録、未編集テイクのWSD data(1bit/5.6MHz)でチャイコフスキーの「ロメオとジュリエット」が、マルチマイク音源からの編集テイクでWSD data(1bit/5.6MHz)のチャイコフスキーのポロネーズ (歌劇「エウゲニ・オネーギン」より)が収録されているのです。

 DSDは注目されている割りには、最新録音の優れた音源が少ないのが難点。その渇望を埋めてくれるのが、本アルバムです。名曲を一流のオーケストラと一流の指揮者が演奏した素晴らしいコンテンツがいよいよ入手できます。発売は9月8日です。試聴しましたが、演奏の生々しさが実に見事に聴けました。緊迫感、音楽の堆積感など、ホールトーンを生かした素晴らしいものでした。

――後編では、BDオーディオと映像メディアの進化についてお話を伺います。

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