しかしながらこのモデルが本当の意味で本来の性能を発揮するのは、マルチチャンネルによる音の再現である。7.1chのスピーカーを用いて、悩んだ挙句、アデルのBDソフト「ライブ・アット・ロイヤル・アルバート・ホール」を視聴してみた。音楽ソフトにしては珍しくこの作品はシネスコサイズで収録されているが、「SC-LX87」の音を聴いていたら、わが家のシネスコスクリーンいっぱいに映像を映し出してみたくなったからだ。
2本のアコースティック・ギターのイントロで始まる「ラブソング」は、その音色を丁寧に描き出す。ロイヤル・アルバート・ホールに響くギターの余韻も美しい。ハスキーだがクリアで伸びやかな彼女の声も力強く再現する。基本となるSN感の高さが静けさも良く伝える。
続く「チェイシング・ペイブメント」ではストリングス・セクションのつややかな音色を聴くことができる。このソフトのサウンドはクリアだがいくぶん引きは締まった録音なので、アンプに余力がないと音が薄まるし彼女のチャーミングな歌声に硬質感が残るが、そうしたことがないのにも感心させられた。この作品の映像のクオリティーはそれほど高くないが、ロンドンで活躍する日本人バイオリニスト・佐藤琴乃さんも映っていて、そうした発見があるのもBDソフトならではの楽しみだ。
音楽ソフトだけでは納得いかないという読者には「ダイハード/ラスト・デイ」の印象にも触れておこう。この作品はDTS・HDマスターオーディオの7.1チャンネルで収録されているが、S-LX87はダイアローグに込められた感情の起伏まで捉えるし、なんといっても静かなシーンでの気配感の再現に驚く。SN感の良さはこうした部分にもよく現れているが、派手なアクションシーンでは低音域をたっぷりと含んだ効果音の描きわけも明快だった。
パネルフェイスも前作とほとんど変わらないので前述したとおり、SC-LX87に見た目の新味はない。もっともこうした作りはマイナス面だけでなく、プラスに作用することもある。それは奥さんに内緒で買い替えてもばれる確率が低いことだ。パイオニアさん、まさかそこまで考えての深謀遠慮じゃないでしょうね。
自動音場測定にも時間はかかるし、ボリュームのように軽く動くセレクター・スイッチにも不満はあるが、それでもぼくがこのAVアンプを評価するのは、音が良いからである。デジタルアンプはシャキシャキして音が硬質になる、そんなイメージを払拭してくれたのもIR製のダイレクト・パワーMOS-FETを採用したモデルからだった。ESS製のDACも確かにSN比やジッターを大幅に低減する要素を備えているが、このDACだって万能薬ではない。いずれも彼らが徹底して使いこなしたからこそ生まれた新しい音である。
それでは最後に一言。このモデルも付属の電源ケーブルから市販の良質なものに換えると間違いなくクオリティーがアップする。小さな違いかもしれないが、このAVアンプを使うなら、ぜひともその違いが分かるユーザーになってほしい。
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